Culture

小林エリカさん初の訳本『アンネのこと、すべて』発売。アンネのユーモアと知性の輝き。 / December 21, 2018

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アンネの素顔を、あらためて。

 オランダの「アンネ・フランク・ハウス」が編集を手がけた『アンネのこと、すべて』が出版されました。翻訳者は、本誌の連載「文房具トラベラー」でもお馴染みの作家・マンガ家、小林エリカさん。

アンネ・フランクの一生を伝えるために、小学生から大人までを対象に書かれた本書。アンネの生い立ちから、迫害を逃れてオランダの隠れ家に潜んだ一家の暮らし、収容所に送られた家族のその後、戦時下の状況まで、わかりやすく書かれています。平易ながらも克明な描写は、読者を1940年代の戦争の世界に引き込み、身につまされるシーンも。それでも、随所で気持ちを救われるように感じたのは、支え合って生きた人々の営みが描かれているからでしょうか。

ひときわ印象的だったのは、誕生日に日記帳が送られた時のエピソード。アンネはそれから、毎日の出来事や本心を夢中で綴っていきます。一家の中で、唯一収容所から生還した父がその日記を開いたのは、戦争が終わり、オランダへ戻った後のこと。そこには、隠れ家で過ごした日々のことが愛情深く、ユーモアたっぷりに書かれていました。それが今では誰もが知る『アンネの日記』。1947年にオランダで出版され、後にドイツ、フランスをはじめ、世界中で出版されました。

小林さんは翻訳するうえで、アンネを「悲劇の少女」ではなく、今を生きる私たちと同じ「ひとりの人間」としてその生死をきちんと描くということにこだわったそう。自著『親愛なるキティーたちへ』(リトルモア刊)では、アンネの足どりを追ってアウシュヴィッツ、アムステルダムなどを旅し、私的な視点からトラベローグを綴った小林さん。その中で大切にしたかったことは、戦時下の暮らしの中にも、他愛のない日常やユーモアがあったということ。『アンネのこと、すべて』にも、アンネのユーモアと知性が全編に生きています。静かな感動とともに、勇気ももらえる一冊。ゆっくりできる時に、紐解いてみてはいかがでしょうか?

BOOK INFORMATION

『アンネのこと、すべて』

編:アンネ・フランク・ハウス
訳:小林エリカ
監修:石岡史子
出版社:ポプラ社
発売年月:2018年11月
定価:3,200円(税抜)
www.poplar.co.jp/book/search/result/archive/4900225.html

text::Yu Miyakoshi

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