INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。

パリ・モンマルトルの丘で、風車を眺めながら過ごす。スンダ・リンビュさん、ローラン・サルさんの家。April 21, 2024

パリやその周辺に暮らす34組の住まいを訪ねて、部屋づくりの秘訣と、そこに詰まったベターライフのヒントを追いかけた特別編集MOOK「&Paris パリに暮らす人の、部屋づくり」。その中からここでは、ファッションデザイナー兼陶芸家のスンダ・リンビュさん、アートディレクターのローラン・サルさん夫妻の住まいを特別に公開します。

長女とダイニングで。食卓は〈ヒューゴー・トロエッツ〉でニールス・ヨンソンがデザイン。カイ・クリスチャンセンの黒い椅子はスウェーデンのオークションで購入。卓上の花瓶はスンダ作。
長女とダイニングで。食卓は〈ヒューゴー・トロエッツ〉でニールス・ヨンソンがデザイン。カイ・クリスチャンセンの黒い椅子はスウェーデンのオークションで購入。卓上の花瓶はスンダ作。

ヴィンテージ家具が経た 時間に思いを馳せて。

モンマルトル地区のジュノ通りに、2人の子どもと暮らすローランとスンダ。「1950年代に建てられたアパルトマンで、広さは84㎡。賃貸住宅で、2020年に入居しました。以前は友人が住んでいて、遊びに来るたびに、『風車と街が一望できる、こんな部屋に住みたい』と思っていて。するとある日、その友人が地方へ越すことに。すぐに大家さんを紹介してもらいました」とローラン。

転居前の住居も近所だったが、広さは54㎡。’20年は長女が生まれた年でもあり、広い家への転居を検討していた。ところがジュノ通り周辺は、パリでも屈指の高級住宅街。不動産業者を通して探しても、なかなか空き物件が見つからないそうだ。

「この地区の物件は、口コミや紹介で埋まることが多いんです。緑豊かで、車の交通量も少なく、静か。とても暮らしやすい場所です。近所に友人が多く、家族ぐるみで気軽に行き来できるのも、このエリアが好きな理由です」とスンダは言う。

アパルトマンは家具なし物件。前の住民が綺麗に改装したため、大きな工事は必要なかった。「床はガレージ用のペンキで塗ったそうです。艶やかな仕上がりが気に入っています」とローランも大満足。

 インテリアはヴィンテージ家具を主役に、シンプルに仕上げた。デザイン家具の蒐集は、ローランの趣味。ブロカントや競売、インターネットで探し、少しずつ集める。「僕は、新品より、古いものに惹かれます。どんな時間を過ごしてきたか、想像を巡らせるのも楽しいですね」

 夫妻の出会いは、共通の友人を介してだった。「NYとパリが拠点の友人の部屋が近くにあり、ホームパーティでローランと出会いました。交際が始まってから、その友人宅を私が借り、彼も頻繁に遊びに来たのです。それ以来、この地区を離れたくなくて。彼と住むための物件を探した際も、この近くに限定しました」

〈ハスレヴ〉のテーブル。デンマークで活躍した、セヴェリン・ハンセン・ジュニアのデザイン。
〈ハスレヴ〉のテーブル。デンマークで活躍した、セヴェリン・ハンセン・ジュニアのデザイン。
リビング。右のソファは〈リーン・ロゼ〉のロゼトーゴ。ローボードはスイスの〈USMハラー〉。レコードプレーヤーは〈バング&オルフセン〉。オーディオはヴィンテージの〈マッキントッシュ〉。「セルジュ・ゲンスブールも同じものを持っていました」 (ローラン) 。スピーカーは自分で脚を付けた。
リビング。右のソファは〈リーン・ロゼ〉のロゼトーゴ。ローボードはスイスの〈USMハラー〉。レコードプレーヤーは〈バング&オルフセン〉。オーディオはヴィンテージの〈マッキントッシュ〉。「セルジュ・ゲンスブールも同じものを持っていました」(ローラン)。スピーカーは自分で脚を付けた。
リビングとダイニングは同じ空間に。
リビングとダイニングは同じ空間に。
白いポットはスンダの作品。チェーンの輪を毎日1 個ずつ継ぎ足し、24時間放置し乾燥させる。
白いポットはスンダの作品。チェーンの輪を毎日1 個ずつ継ぎ足し、24時間放置し乾燥させる。
リビングの目の前に風車が。夕方になると、部屋いっぱいに美しい光が入る。
リビングの目の前に風車が。夕方になると、部屋いっぱいに美しい光が入る。
スンダ・リンビュさん、ローラン・サル1

時には一人の時間を 楽しむことも大事に。

 ローランはフリーランスのアートディレクター。広告のディレクションが主な仕事で、顧客は〈アディダス〉など、著名な会社が多数。スンダはファッションデザイナー。〈ギャスパー ユルケヴィッチ〉や、〈ア
ンド・アナザーストーリー〉などを経て、独立した。現在は陶芸家としても活動中。「趣味で始めた陶芸に、夢中になりました。毎日、作陶に打ち込んでいます」

 彼女はインスタグラムで作品を発表し、売れ行きも快調。「引っ越しを機に、自宅に作業場を作りました。以前の物件は、アトリエを構える場所がなかったので嬉しいですね」

 子どもの小学校と保育園は近所にあり、夫妻のどちらかが送り迎えを担当。「コロナ禍以降は、彼も私も自宅勤務が増え、時間が自由になりました。日中は私がダイニングテーブルでデザインの仕事をします」

 料理は二人とも得意。一人が食事の支度をする間、もう一人が子どもと遊ぶ。「料理はシンプルが信条。野菜中心のメニューが多いですね。でも、時には家族で外食をしたり、鶏の丸焼きを作って、友人一家と賑やかにディナーを楽しんだりします」

 夫妻の共通の趣味はコンサート。ポップやクラシック、ジャズなど、さまざまな音楽を聴く。「私たちは、コンサート以外、共通の趣味やスポーツはありません。けれど、お互いの趣味を尊重し、一人の時間を楽しむことは大切だと考えています」

 ローランは優しく、人の話を聞くタイプ。仕事も私生活でも、まず目標を立て、それに向かって前進し、完遂する堅実な人だという。スンダも、必ず目的を遂げる人。リーダーシップがあり、流行にも敏感だ。

「僕たちは、性格は似ていますが、好みやセンスが同じ、というわけではありません。家具などを買ったりするときは、双方が納得するまで話し合うようにしています」

 今後の計画を聞くと、スンダは生まれ故郷のアルプスの山中に、古い家を買い、工房を構えて本格的に作陶をしたいそう。一方ローランは、「本の編集や出版の仕事を増やしたい。ヴィンテージ家具のアドバイザーの仕事も計画中。古い家具は状態が悪いものが多く、購入が難しい。クライアントの希望を聞き、いいものを探す仕事を始めたいですね」

ベッドルームの壁紙は、入居の際に貼った。「床の色に合わせて、グレー系でピュアなものを選びました」 (ローラン) 。ベッドサイドの棚は、不要になった木製のベンチを切って取り付けた。一角がスンダのアトリエ。「風車を眺めながら作陶をします」 (スンダ) 。
ベッドルームの壁紙は、入居の際に貼った。「床の色に合わせて、グレー系でピュアなものを選びました」(ローラン)。ベッドサイドの棚は、不要になった木製のベンチを切って取り付けた。一角がスンダのアトリエ。「風車を眺めながら作陶をします」(スンダ)。
ローランの仕事用デスクも寝室に。
ローランの仕事用デスクも寝室に。
左上の絵は、ブルレック兄弟の作品。右下は長男が描いた。
左上の絵は、ブルレック兄弟の作品。右下は長男が描いた。
長男と長女の部屋。緑の壁紙は前の家から運び、貼り直した。
長男と長女の部屋。緑の壁紙は前の家から運び、貼り直した。
虎の絵はインゴラというイラストレーターの作品。「色使いが綺麗で気に入りました」 (スンダ) 。
虎の絵はインゴラというイラストレーターの作品。「色使いが綺麗で気に入りました」(スンダ)。
おもちゃの整理棚は〈IKEA〉。「片付けが好き。いつも何かを片付けています」 (ローラン) 。
おもちゃの整理棚は〈IKEA〉。「片付けが好き。いつも何かを片付けています」(ローラン)。

Sunda Limbu スンダ・リンビュ/Laurent Salles ローラン・サル

ファッションデザイナー兼陶芸家と、アートディレクターの夫妻。Instagramは@sunda.ceramics(スンダ)、@horizon__system(ローラン)。ルノワールやピカソも描いた有名な風車が目の前に!

スンダ・リンビュさん、ローラン・サル2
キッチンは友人である前の住民が改装したときのまま。天井のランプも友人が残したもの。
キッチンは友人である前の住民が改装したときのまま。天井のランプも友人が残したもの。
冷蔵庫の上に〈グルンディッヒ〉のラジオを置き、音楽を聴きながら料理をする。
冷蔵庫の上に〈グルンディッヒ〉のラジオを置き、音楽を聴きながら料理をする。
家族や友人の写真をアレンジして作ったマグネット。
家族や友人の写真をアレンジして作ったマグネット。
バスルーム。〈H&Mホーム〉のメタルボックスを、コスメの整理に使う。
バスルーム。〈H&Mホーム〉のメタルボックスを、コスメの整理に使う。
ローランが撮影、編集をした写真集『ピピ』。 彼が主宰する「スタジオ・ペリフェリック」から200部限定で出版 (http://cargocollective.com/peripherique) 。
ローランが撮影、編集をした写真集『ピピ』。 彼が主宰する「スタジオ・ペリフェリック」から200部限定で出版(http://cargocollective.com/peripherique)。
ジョーズの絵は、アーティストであるスンダのお兄さん、Mothiが描いた。
ジョーズの絵は、アーティストであるスンダのお兄さん、Mothiが描いた。
仏アルザス地方のアーティスト、ジャン・アルプが1938年に手がけた版画『星座』。
仏アルザス地方のアーティスト、ジャン・アルプが1938年に手がけた版画『星座』。

photo : Mari Shinmura text : Miyuki Kido

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