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「まさに奇跡的な展覧会」。皆川 明さんが語る「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」の見どころ。December 22, 2025

「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」の会場で、自身も愛用するバレットチェアの隣に立つ〈ミナ ペルホネン〉デザイナーの皆川 明さん。会場構成は建築家・田根剛が担当。
「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」の会場で、自身も愛用するバレットチェアの隣に立つ〈ミナ ペルホネン〉デザイナーの皆川 明さん。会場構成は建築家・田根剛が担当。

生涯で500脚以上の椅子をデザインし、20世紀の家具デザインを牽引したハンス・ウェグナー。現在、彼の名作チェアや家具を一堂に集めた展示「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」が東京・渋谷の『ヒカリエホール』で開催中だ。自身もウェグナーをはじめとした北欧家具の愛用者であり、ものづくりの担い手としてウェグナーの哲学に共鳴する部分も多いという〈ミナ ペルホネン〉のデザイナー皆川 明さんが語る、展覧会の見どころとは?

細部に宿るウェグナーの意志と、それに応える職人の技術。

「言い過ぎに聞こえるかもしれないですけど、ちょっと奇跡的な展覧会だなという印象があります。それはもちろん、織田先生がこれだけのものを集めてくださったからこそ開催できるということと同時に、〈カール・ハンセン&サン〉や〈PPモブラー〉といった、今も続く良質なものづくりの担い手たちの存在なくては成し得なかったものだと思うからです」

 椅子研究家であり北欧を中心とした近代家具のコレクターでもある織田憲嗣のコレクションを有する北海道東川町の協力を得て、ウェグナーの椅子約160点と、その他家具約200点などを展示する、日本国内ではかつてない規模の展示を前に、皆川さんは感想を口にする。

「膨大な作品の数はもちろんですが、展覧会として革新的だと感じたのは、パーツを並べて、椅子の構造やどのように組み立てられているかまでを図面と合わせて展示している点。そこが特におすすめの見どころです。出来上がった製品をデザインとして見せるという一般的な展示手法とは異なり、どのように作られているか、そのプロセスまで見せているというのは、とても意味深い、貴重な展示だと思いますね」

いくつもの名作椅子をパーツごとに分解し、正確無比な三面図とともに見せるクラフツマンシップを感じる展示。
いくつもの名作椅子をパーツごとに分解し、正確無比な三面図とともに見せるクラフツマンシップを感じる展示。
「このアイデアを製品として実現する職人の技術力の高さが感じられますね」と皆川さん。
「このアイデアを製品として実現する職人の技術力の高さが感じられますね」と皆川さん。

 ウェグナーが1953年にデザインをした「バレットチェア」や、彼の最高傑作との呼び声も高い「熊が手を広げている」ような愛らしいフォルムが魅力の「ベアチェア」など、多くのウェグナー作品を愛用している皆川さん。その出合いはいつだったのだろうか。

「もともと祖父母の家が家具屋でした。まだ多くの北欧家具メーカーの日本支社がない頃の輸入元で。3〜4歳の本当に小さな頃に、祖母から『これがバッファローの革だよ』と実際の家具に触れさせてもらったり、もう少し成長てからは、北欧とイタリアやドイツなど他のヨーロッパの国々とのデザインや、ある種の文化の違いを、言葉として教えてもらっていました。振り返れば、それがウェグナーに限らず家具を意識した初めての経験で、いまの関心にも繋がっているのだと思います」

北欧家具の中でも、ウェグナーに代表されるデンマークのデザインと、アルヴァ・アアルトらが牽引したフィンランドのデザインにも違いがあって面白いと皆川さんは言う。

「デンマークのデザインは、フィンランドに比べてもう少し工芸的な要素が感じられますね。国民が安価に、誰もが手に入れやすく長く使える便利なものを作りましょうと、アアルトの『スツール60』のような装飾を極力省いたものがフィンランドデザインの根幹だとすれば、デンマークではウェグナーを中心に、フィン・ユールやボーエ・モーエンセンといった同時代の作家たちが相互に影響を与えながら高め合って、工芸的なデザインの美しさや、職人の技術の可能性をもう少し取り入れようとした流れがあるように思います。その技術力の高さが感じられるのも、今回の展覧会の魅力ですね」

ウェグナーが製作した家具を時代やメーカーごとにゾーニングして展示した会場で。彼のデザインの引き出しの多さが感じられる。
ウェグナーが製作した家具を時代やメーカーごとにゾーニングして展示した会場で。彼のデザインの引き出しの多さが感じられる。

〈ミナ ペルホネン〉のデザイナーとして、ウェグナーの視点や考え方に共感する部分はあるのだろうか。

「ものづくりにおいて、あまり自分の範囲を固めないということは心掛けていて、彼の数百に及ぶデザインのバリエーションを見ていると『自分はこうだ』というふうに決めつけていることは何一つないのだなと感じますので、そこは共感する部分ですね。また、「人が使う」「長く愛用できる」という2つの要素から外れないものづくりが守られていて、その点にも惹かれます。用途や環境に応じてデザインは変わっていくものですし、バリエーションも豊富なんだけれど、ウェグナーのデザインの理念がどのプロダクトにもしっかりと反映されている。自由に幅広いデザインの中で、軸は一本揺るぎないものがある。それは〈ミナ ペルホネン〉でも大切にしていることです」

 最後に、ベターライフを考える上で、美しいデザインを暮らしに取り入れることについても話を聞いた。

「まず楽しむということが第一にベターライフだと思うんです。これが美しい、正解だと価値を固めずに、毎日のルーティンの中に小さな工夫で変化をもたらしていく。家具でいえば、いつもと違う場所に椅子を置いてみるだけでも見える景色は変わるでしょうし、それは料理でもなんでもそう。その細かなレイヤーを楽しむことが大切だと思いますね。今回の展覧会の最後には、ウェグナーの名作の数々に実際に座って体験できる場所もありますから、そういうものに触れることもまた、日々を豊かにしてくれるはずです」

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皆川 明 Akira Minagawa〈ミナ ペルホネン〉デザイナー

〈minä perhonen〉デザイナー、ファウンダー。1995年に前身である〈minä〉を設立。テキスタイルデザインを中心に衣服をはじめ、家具や器、空間ディレクションなど、日々の暮らしに寄り添う活動を手がける。2025年にブランド設立30周年を迎えたことを記念し、世田谷美術館にて展覧会「つぐ minä perhonen」が開催中。
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/exhibition/special/detail.php?id=sp00224

mina-perhonen.jp

写真で振り返る展示の見どころ。

ウェグナーが17歳で手がけた「ファーストチェア」と、3脚のみ製作されたという「セカンドチェア」を再現復刻。
ウェグナーが17歳で手がけた「ファーストチェア」と、3脚のみ製作されたという「セカンドチェア」を再現復刻。
精巧に作られたウェグナー邸のミニチュア。
精巧に作られたウェグナー邸のミニチュア。
251201_03wegner_016 | 5分の1サイズで作られたスケールモデルも多数展示される。
5分の1サイズで作られたスケールモデルも多数展示される。
251201_wegner_018 | 名作椅子の数々が浮かび上がるようなラインティングも展示の特徴。
名作椅子の数々が浮かび上がるようなラインティングも展示の特徴。
251201_07wegner_006 | ウェグナーの椅子を実際に体感できるコーナー。
ウェグナーの椅子を実際に体感できるコーナー。

「織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ」は、2026年1月18日までの開催。皆川さんが「これだけのウェグナー作品を日本で一堂に見られるのは奇跡的です」とも語る展示を、お見逃しなく。

Event Information織田コレクション ハンス・ウェグナー展 至高のクラフツマンシップ

会期:12月2日(火)〜2026年1月18日(日) ※1/1は休館
時間:10:00〜19:00(12月31日は18:00まで) ※最終入場は各30分前まで 12月31日(水)のみ18:00まで(最終入場は17:30まで)
会場:ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)
住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1
入場料:一般 ¥2,300、大学生・高校生 ¥1,500円、中学生・小学生 ¥700

展覧会公式サイト

photo : Kazuhiro Otsuki(portrait)、Yuya Furukawa(space)

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