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Art

This Month Artist: Charles Eames / February 10, 2019 河内タカの素顔の芸術家たち。
チャールズ・イームズ

Charles_Eames
Charles Eames
1907 – 1978 / USA
No.063

ミズーリに生まれ、ワシントン大学で建築を学んだ後に23歳にして自身の建築事務所を設立。建築や家具のデザインだけでなく映像やグラフィックなど広い分野において功績を残しミッドセンチュリーモダンの草分け的な存在として知られている。プライウッドを使った成型合板やFRP(繊維強化プラスチック)といった新素材を採用した家具を次々に制作。ジョージ・ネルソンがデザインディレクターを務めていたハーマンミラー社から1946年により販売され、それらの家具とプロダクトは時代を超越した名作として今現在に受け継がれている。ちなみに、今回取り上げた『イームズ・ハウス』はイームズ夫妻が手がけたほぼ唯一の建築物であった。

Case Study House #8

 イームズ夫妻の家として知られる『イームズ・ハウス』は、ケース・スタディ・ハウスと呼ばれる20世紀半ばにロサンゼルスで起こった建築プログラムの一環としてその8番目に建てられたものです。大戦前後の住宅不足を見越して、戦争で開発された新素材や技術を活かしたローコストの住宅の可能性を追い、それを当時の西海岸の建築家たちに依頼して造らせるという画期的なプログラムでした。それを実践すべく鉄骨とガラスを組み合わせてできたイームズの二棟からなる住宅だったわけですが、実のところケース・スタディ・ハウスとしてはこの家は規格外の建物でした。その理由は、そもそものルールが平屋であるべきところが2階建であり、住宅だけでなくスタジオを併設した2棟に別れた比較的大きな長方形の建築群であったからです。

 イームズ邸は、青々とした太平洋が眼前に広がりユーカリの木が茂る、パシフィック・パリセイズというエリアのなだらかな麓に1945年から1949年にかけて建てられました。赤、青、白、そして黒というモンドリアンの絵から引用したような外観で、モダンでスタイリッシュなプレハブのこの家は、「モジュール」と呼ばれる一定の規格の部材を組み合わせて造られたものであり、それはイームズのシグネチャー的な家具としても知られる『ストレージユニット』の延長と考えていいのかもしれません。つまりこの家は、棚を仕様書に従ってプラモデルを組み立てるように、理論的にはまったく同じ家がいくつも組み立てられるということです。

 現在、この家はイームズの子息たちによって管理されており、事前に予約をすれば比較的高めな設定ではあるものの内観も見学することが可能で、ぼくもガイドを伴って周ったことがあります。そのときに感じた印象としてこの家の魅力を率直に表すならば、「ものすごく快適に暮らせる空間」ということにつきるはずです。それを裏付けるようにイームズ夫妻は完成した1949年から亡くなるまでずっとこの家に住み続け(彼らはこの家にクリスマス・イブに越してきたそうです、How ロマンティック!)、25軒もの様々なケース・スタディ・ハウスが作られた中で未だここが最も成功した物件と評価されているのも、その実験性の高さにも増して機能美や快適さを兼ね備えていたからだと思うのです。

 さて、この家の外観とインテリアはもちろん大きな魅力なのですが、チャールズとレイがこの家で暮らし、いろいろと想像を膨らませ、デザインを行ったり絵を描いたり周辺で写真や映像を撮ったりしていたことが個人的には最も惹かれるところなのです。例えば、1955年に撮られたこの家の周辺や内観が収められたショートムービー『HOUSE』は、周辺に咲く草花、石ころ、ジョセフ・アルバースの絵、古いカッチーナ・ドールなどのアンティークの人形や玩具、日常使っていた食器やカップや日本からの土産である竹製のくしなどが、柔らかなフルートの音色とともにスライド形式で静かに流れていくといったものです。そして、この美しく心が洗われるような映像を見ながら、ああ、イームズ夫妻にとっての家とは自分たちが愛したものたちと共に暮らすための「器」として機能していたのだなとしみじみと感じ入ってしまった次第なのです。

Illustration: SANDER STUDIO

『Charles & Ray Eames: 1907-1978, 1912-1988: Pioneers of Mid-century Modernism』(Taschen America Llc)イームズ夫妻が手がけた建築や家具のデザインについて、たっぷりの写真とともにわかりやすく紹介する一冊。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。