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Art

This Month Artist: Alvar Aalto / January 10, 2019 河内タカの素顔の芸術家たち。
アルヴァ・アアルト

Alvar_Aalto
Alvar Aalto
1898 – 1976 / FIN
No.062

1898年にフィンランドで生まれた20世紀を代表する建築家・デザイナー。ヘルシンキ工科大学で建築を学び、建築事務所での勤務を経て1923年に個人事務所を設立。初期こそ新古典主義に基づく作風だったが、次第にモダニズムの作風へと変化していった。1928年に竣工したパイミオの「サナトリウム」が高く評価されたことでその名が知られるようになり、「マイレア邸」などの個人の住宅を含む幾多の建築物を設計した。1935年には妻アイノらとともに照明や家具をデザインするブランド「アルテック社」を設立、曲線を特徴とする家具やガラス器は今日のインテリアデザイン界に影響を与え続けている。1976年、ヘルシンキにて没。

フィンランドの自然と共存するような建築や
家具を世に送り出したアルヴァ・アアルト

 フィンランドが誇る建築と家具デザインの巨匠であるアルヴァ・アアルト。そのアアルトが38歳のときに建て(1936年に完成)亡くなるまでの40年間住み続けた「アアルト自邸」は柔らかい自然光に満ちた木のぬくもりが感じられる空間です。この二階建ての住宅はヘルシンキ郊外にあるムンキニエミという住宅地に建てられていて、道路から観ると窓も少なく閉ざされているようにも見えるのですが、いったん屋内に足を踏み入れるや庭に面した窓から柔らかい明かりが差し込み温かみに溢れた空間が広がっているのです。

  一階のリビングルームにはゼブラ柄のファブリック仕様のランジチェア「アームチェア400タンク」とローテーブル、グランドピアノに上には妻の写真とポール・ヘニングセンによる紙製のデスクランプが置いてあり、その奥にアアルトが日々使っていた小さな書斎兼アトリエがあります。この小さな空間は「スキップフロア」と呼ばれる隠し部屋のような工夫がしてあるのですが、アアルトは会いたくない客が来るとこの部屋にこっそりと隠れていたというのです。また、このリビングの窓下に細い郵便受けのような小窓があるのも、北欧の長い冬の間は窓が凍り付き開閉ができなくなったり、開けたら開けたで一気に冷気が入ってくるためこの窓で調整していたからと現地で教わりました。

 生涯一度も日本に来たことはなかったアアルトでしたが、この家は和風建築からの影響をかなり受けているのではないだろうかと思ってしまうほど、襖のようなスライドドアや和テイストの家具が機能的に使われていたりします。一方、椅子のデザインにおいて北欧を代表するような名作を生んだにもかかわらず、自身たちがずっと使い続けていた椅子というのが、一見この家のキッチンにそぐわない古風なものなのです。実はこの椅子、1924年に妻アイノと新婚旅行でイタリアに行った際に買いもとめたものらしく、彼らは愛着を持ちながらそれをずっと使い続けていたそうです。

 戦後、プラスティックやスチールなど新しい工業素材が続々と生みだされ、多くの北欧モダンのデザイナーたちがその新しさに魅了されていったにもかかわらず、アアルトはというとフィンランド産の木材の可能性を追求し、長い冬の生活を心地よく過ごすために機能的でありながら温かみのある家具や照明などを生み出しました。湖の曲線からヒントを得た「サヴォイ・ベース」やサナトリウム用にデザインされた「パイミオチェア」など、考えてみれば彼の代名詞ともいえる優美かつ緩やかな曲線(ちなみに「アアルト」はフィンランド語で「波」を意味します)を用いてのフィンランドの自然やライフスタイルを踏まえた空間作りや家具は、自身が若くして手がけたこの自邸において実践されていたというわけなのです。

<展覧会情報>
『アルヴァ・アアルト もうひとつの自然』
2019年2月16日(土)~4月14日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
ヴィトラ・デザイン・ミュージアムとアルヴァ・アアルト美術館の企画による国際巡回展で、ドイツを皮切りにスペイン、デンマーク、フィンランド、フランス、そして2018年には神奈川県立近代美術館で開催された。日本においては実に20年ぶりとなる個展となり、オリジナルドローイングや模型、家具をはじめとするプロダクトや写真など合計約300点が展示される。

Illustration: Sander Studio

『アルヴァ・アアルト:もうひとつの自然』(国書刊行会)同名の国際巡回展日本展の公式図録。近代家具の展開に画期的な役割を果たした「アームチェア 41 パイミオ」や「スツール 60」、フィンランド・デザインのシンボルになっているガラス器「サヴォイ・ベース」など、その多彩なる活動を、300点に及ぶオリジナル図面や写真で辿る。アアルトと日本との関わりを追ったコラムやエッセイも収録した充実の一書。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。この連載から派生した新刊『芸術家たち 建築とデザインの巨匠 編』(アカツキプレス)を4月に出版したばかり。