Fashion

〈YAMAI〉心地よい野生のマテリアルで自然と人のつながりを感じる服。Shape of Style to Come 02 / January 25, 2021

機能的、肌触りがいい、耐久性がある、美しい……。『アンドプレミアム』が服選び、もの選びの際に大切にしてきた“つくりのいいもの”という考え方。そして今、未来を考えたものづくりには、技術の継承、パートナーシップ、自然への感謝、サステナビリティ……という、対象を思いやる視点が欠かせません。そうしたものづくりを行うブランドの中から、〈YAMAI〉のつくりのいいものが生まれる現場を訪ねました。

Shape of Style to Come 03 : YAMAI

福岡県の宝島染工にて。右から、泥染めのド レス¥52,000、草木染めのチャイナジャケット¥44,000、 ドレスと同素材のジャケットは墨染め¥48,000。
福岡県の宝島染工にて。右から、泥染めのドレス¥52,000、草木染めのチャイナジャケット¥44,000、ドレスと同素材のジャケットは墨染め¥48,000。

素材の恵みと手仕事、服作りの根源にアプローチする。

墨染め
は、墨の濃度を変えて色みを表現する。
墨染め は、墨の濃度を変えて色みを表現する。
草木染めはヤマモモ科の樹皮が染料。
草木染めはヤマモモ科の樹皮が染料。
墨染めの、インド産手紡ぎ手織りのコットンシルクのドレス¥48,000
墨染めの、インド産手紡ぎ手織りのコットンシルクのドレス¥48,000
工房内には藍染めの甕(かめ)が4 つ。発酵液は生きた染料なので、日々コンディションが変わる。
工房内には藍染めの甕(かめ)が4 つ。発酵液は生きた染料なので、日々コンディションが変わる。

 人の手を通して生まれた手紡ぎ、手織りの生地や、泥、藍、墨、草木などの天然染料。心地よい野生のマテリアルで新しいウェアを表現する〈ヤマイ〉。自然と人のつながりを感じさせる、〝豊かさ〞を身にまとう服として、 ブランドは2020年にローンチした。手がけるのはデザイナーの山井梨沙さん。現在、アウトドアブランド〈スノーピーク〉の代表も務める。

「2012年に家業である〈スノーピーク〉に入社したときから、〝服を通して人の生活を豊かにしていきたい〞という思いがありました。社内でアパレル事業を立ち上げて、5年ほど経た昨年、社長就任への打診があったので、その交換条件として自分のブランドをやらせてほしいとお願いしたんです。経営に入るとこれまでのようにデザインを続けられなくなりますが、好きな服作りを諦めたくなかったので、型数を絞り、本来自分が表現したかったことだけをやろうと新ブランドを立ち上げました」

山井さんが作りたかった服とは、「自然から生まれた素材を、人の手を介して形にしたもの。長く着られる質のいいもの」。〈スノーピーク〉のウェアが文明から生まれた技術を駆使し、街での暮らしと自然を両立させる懸け橋となるようなものだとすれば、〈ヤマイ〉は、服が生まれた背景や文化を知り、昔ながらの手作業の素晴らしさを体感できるような、服作りの根源にアプローチするようなもの。

 ファーストコレクションを始めるにあたり、まず依頼したのが福岡県三潴(みずま)郡にある染工房、宝島染工だった。2001年、代表の大籠千春さんが創業した工房は、藍染めをはじめとする天然染料専門で、伝統的な手法の染色技術を持ち、業界でも人気が高い。大籠さんのものづくりのスタイルは、「作品」ではなく、あくまでも「商品」を作ること。ある程度を量産し、中量生産でやっていくことに商売として意味があると考えている。

「天然染めは、化学染料と違ってどうしても色がブレてしまう。それでも茶色は茶色で、グレーはグレーでと収めていけるのは、ある程度の量をちゃんと生産していくところに重きを置いてやっているからです。手染めの服が『作品』的な立ち位置になると、単価も上がり、着る人もシーンも限られてしまう。それよりも商品として流通でき、再オーダーも受けられて、季節発注もできるなど、アパレルメーカーの流れに対応する。工場として自立することで、商売としての手染めを残すことができ、幅広いニーズにも応えられると思うのです」(大籠さん)

気持ちがいいと思う服は、野生から生まれた素材にある。

ここでは藍染め、墨染め、草木染めなどの天然染料を扱う。若いスタッフも多い。
ここでは藍染め、墨染め、草木染めなどの天然染料を扱う。若いスタッフも多い。
宝島染工代表の大籠千春さん。「〈ヤマイ〉のエッジになるところを受け持っているので、ブランドの世界観に合わせた提案をします」
宝島染工代表の大籠千春さん。「〈ヤマイ〉のエッジになるところを受け持っているので、ブランドの世界観に合わせた提案をします」
藍染めの原料はインド産を使用している。
藍染めの原料はインド産を使用している。
西ベンガル地方の野生のシルク、カリフォルニアやペルーのオーガニックコットンなど、肌触りのいい天然素材にこだわる。
西ベンガル地方の野生のシルク、カリフォルニアやペルーのオーガニックコットンなど、肌触りのいい天然素材にこだわる。

 今回、山井さんとは天然染料をどのように使いたいのか話し合いを重ねたという。「〈スノーピーク〉とは違うライン。私が受けた印象としては、同じ屋外でも自然界よりも街へ出ていくイメージでした。使っている素材は天然だけれども、伝えたいのは自然との触れ合いがあまりない都会の人へ向けて。甘さのないクールな世界観なのかなと思い、自然界にある色と街にある色のハイブリッドを提案させていただきました」(大籠さん)

 今までの経験を通して、気持ちがいいと思う服は、野生から生まれた素材が多いと山井さん。ゆえにこれからのものづくりで目指すことは2つ。いい素材を絶やさないことと、宝島染工のような手仕事を残していくこと。クオリティを優先した限られた生産で〝豊かさ〞を感じてもらうためにも、人と自然がいかにつながってものづくりが行われているかを伝えたいという。

「自分が着る必要最低限のものを自分で作るという考え方は、自ら環境をつくるというアウトドアの考え方と相通ずるものがあります。昨今のコロナ禍で、生活においても取捨選択を余儀なくされましたが、普段から自然の中で過ごしていると判断が早くなる。こんな状況だからこそ不便を乗り越えて、ものに愛着を持ち、作っている人や原料が生まれる自然の恩恵に感謝する。そんなことを今一度立ち返って発信していきたいと思っています」

2020年秋冬シーズンの天然染料は、墨、泥、草木に絞った。
2020年秋冬シーズンの天然染料は、墨、泥、草木に絞った。
プレスルームにある生地見本。トレンドにとらわれず、型数を絞り、本当に作りたいものだけを表現する。
プレスルームにある生地見本。トレンドにとらわれず、型数を絞り、本当に作りたいものだけを表現する。
まずは自分の感性が惹かれる素材を選ぶところから始める。「毎シーズン、山積みにされた数百種類の候補となる生地を、目と手で確かめてからピックアップしていきます」
まずは自分の感性が惹かれる素材を選ぶところから始める。「毎シーズン、山積みにされた数百種類の候補となる生地を、目と手で確かめてからピックアップしていきます」
デザイナーの山井さん。〈スノーピーク〉の創業家に生まれ、幼い頃から豊かな自然環境に囲まれて育つ。
デザイナーの山井さん。〈スノーピーク〉の創業家に生まれ、幼い頃から豊かな自然環境に囲まれて育つ。

YAMAI ヤマイ

問い合わせ先
スノーピーク
TEL:0120‒010‒660

photo : Norio Kidera edit & text : Chizuru Atsuta
※『&Premium』No. 83 2020年5月号「これからの、つくりのいいもの」より

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