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極私的・偏愛映画論『サマーフィーリング』選・文 / 鶴谷聡平 (NEWPORT店主、サントラ・ブラザース) / June 25, 2020

This Month Themeいい音楽が流れる映画を観たくなる。

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説明の少ないストーリーに寄り添う音楽。

 最近の新作映画は、面白いものが沢山あるのはいいけれど、なんだかハードでダークなものが多すぎやしないだろうか。そういうものばかり観ているとさすがに疲れてくるので、思いがけず温もりを感じる映画に出会うと、やっぱりホッとしてしまう。

 そんなタイミングで観ることのできた、フランスのミカエル・アース監督の長編2作目となる『サマーフィーリング』(2015)。同監督の最新作である『アマンダと僕』(2018)の公開に合わせ、日本では同時期に劇場公開されていた。この2作に共通するのは、愛する人を突然失った悲しみと、そこからの再生。『サマーフィーリング』は、ベルリンに暮らすロレンスが、恋人のサシャの急死をきっかけに彼女の妹ゾエと出会い、その後の二人のそれぞれの3年間の夏を描いた作品だ。

 愛する誰かが突然死んでしまった大きな喪失感というテーマは重いが、それでもなんとかやっていくしかない主人公への監督の視線は、親密で優しい。悲しい物語という印象は全然なく、少しずつサシャの不在と向き合えるようになって、最後にはロレンスもゾエも一歩前に踏み出すことができるようになる。その過程を、説明はほとんど省いて、視線と表情の演技で見せているのがいい。

 監督のミカエル・アースは、いくつかのインタビューで、「自分にとって音楽は何よりも大切」「音楽のような映画を作っているつもり」というふうに答えている。音楽のような映画とは、理屈抜きでいいメロディーやリズムに反応するかのような映画ということなのだろう。そんな彼だけに、『サマーフィーリング』でも音楽の使い方がとても効果的だ。フランスのマルチミュージシャン、タヒチ・ボーイによるオリジナルスコアは、ピアノとアコースティック・ギターによる穏やかな旋律で、説明の少ないストーリーを心情的に補うように寄り添っている。ロレンスがニューヨークに住み始めてからの場面では、彼の友人の弟役としてマック・デマルコが登場し、実際にライブハウスで演奏もする。この映画の中で最もテンションの高い屋上のパーティーでみんなが踊る曲は、ジ・アンダートーンズによるポップパンクの名曲、「Teenage Kicks」だ。ロレンスが新たに女性と結ばれ、二人で海まで行って遂には自分を取り戻すかのようなラストでは、なんとベン・ワットの「North Marine Drive」が使われた。この選曲センス、ニューウェーブやネオアコを通った人なら涙ものに違いない。

illustration : Yu Nagaba
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16ミリフィルムで撮影された夏の日差しがやわらかくて美しい。ストーリーとは直接関係ないが、パリのホテルオーナーが女装して出かけたり、NYの屋上のパーティーでゲイの年配男性が「人生を楽しむのが仕事だ」と語ったり、人生の肯定感が基本にあるような気がする。
Title
『サマーフィーリング』
Director
ミカエル・アース
Screenwriter
ミカエル・アース
マリエット・デゼール
Year
2015年
Running Time
106分

NEWPORT店主、サントラ・ブラザース 鶴谷 聡平

ベジレストラン&ワインバー 〈NEWPORT〉店主。「SPIRAL RECORDS」のバイヤー/レーベルディレクターを経て、2008年に〈NEWPORT〉をオープン。映画のサントラだけで選曲するユニット、サントラ・ブラザースとして、フリーペーパー「We Love Soundtrack」の発行も行う。

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