河内タカの素顔の芸術家たち。
ビートルズ旋風の中心で写真を撮り続けたポール・マッカートニー【河内タカの素顔の芸術家たち】Paul Mccartney / September 10, 2024
ビートルズ旋風の中心で撮られた写真
ポール・マッカートニー
東京シティービューで行われている『ポール・マッカートニー写真展 1963-64~Eyes of the Storm (アイズ・オブ・ザ・ストーム)~』は、デビューして間もない頃のザ・ビートルズが世界的な名声を得ていくライブ感あふれる姿をとらえた写真作品展です。そもそも、メンバーであったポールが写真を撮っていたことは、おそらくビートルズ・ファンの間でも知られてなかったと思います。それもそのはず、今回展示されている250点もの写真はポール自身も長らく忘れていた「幻の写真」であり、60年間一度もプリントされないままネガやコンタクトシート状態だったものをプリントし初めて公開されたのです。このことで思い起こすのは、昨年リリースされ世界中を驚かせたビートルズ最後のシングル『ナウ・アンド・ゼン』ではないでしょうか。ポールが主導する形でジョンとジョージがこの世からいなくなった後でも新たな曲が生まれたように、ポールの写真は彼らの60年前の姿を今の時代に鮮やかに蘇らせてくれたのです。
今回展示されている写真は、1963年12月から1964年2月までの3ヶ月間に、彼らの故郷リバプールを皮切りに、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ワシントンDC、そしてマイアミで過ごした様子を撮影したものなのですが、彼らの若々しい姿がまるで昨日の出来事のように切り取られています。撮影時、ポールはまだ21歳。技巧的にもシンプルではあるのですが、ビートルズ旋風を巻き起こした本人が撮ったところに大きな価値と魅力があるのは言うまでもありません。また撮影したのがポールだからといって彼が登場しないというのではなく、周囲にいたスタッフにカメラを渡して彼自身もフレームに収まっていますし、鏡に映ったカメラを持つ自分を撮った写真は本展でも印象的な作品となっています。
これらの写真が撮られた頃のビートルズは、まさに巨大なストームの中にいました。1963年11月22日にアルバム『ウィズ・ザ・ビートルズ』が彼らのデビューアルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』に代わって第1位を獲得。年を越した1月にパリのオリンピア劇場で18日間に及ぶ公演を行っている最中に、アメリカで『抱きしめたい』がシングル チャート1位となり、その勢いのまま2月7日にアメリカ上陸すると空港には1万人のファンたちが待ち構えていました。人気バラエティ番組の『エド・サリヴァン・ショー』に出演し、2月11日にはワシントンD.C.のワシントン・コロシアムで初のアメリカ公演。さらにNYのカーネギー・ホールで2回目の公演を行った後、16日にフロリダ州マイアミのホテルで2回目の『エド・サリヴァン・ショー』に出演。今回の展示ではそれぞれの街で撮られた写真群を時系列で見ることができます。
もともとカメラが好きだったポールは、ASAHI PENTAX SVを使って黒縁眼鏡をかけたジョン、車内で居眠りするジョージ、屈託なく笑うリンゴ、ガールフレンドのジェーン、そしてマネージャーのブライアン・エプスタインなど、仲間同士でしか見せない無防備な表情をとらえている一方で、自分たちを取り巻く世界が一変しなにが起こっているのかが把握できていない戸惑いも感じられます。メンバーの他にも、熱烈に声援を送るファン、自分たちにカメラを向けるマスコミ、空港の整備員や駅員を撮った写真からは、父親ジェイムズも同じような作業員だったということもあってか、労働者階級の人々へ向けたポールの温かい人柄が伝わってきます。
作品の多くはモノクロ写真なのですが、最終目的地のマイアミでは一転してカラーフィルムでの撮影を行なっていて、プールや海でそれぞれのメンバーのリラックスした様子が鮮やかな色彩で残されていたのは大きなサプライズでした。すでに名声を勝ち得た4人のほんの束の間の休息の時でしたが、無邪気にふざけあう姿を見ると、この後の彼らがさらなる大旋風を起していくことをまだ思い描くことができなかったことが窺い知れるのです。
展覧会情報
ポール・マッカートニー写真展 1963-64〜Eyes of the Storm〜
会期:9月24日(火)まで開催中
会場:東京シティビュー (六本木ヒルズ森タワー52階)
住所:東京都六本木6-10-1
【大阪展】
会期:2024年10月12日(土)〜2025年1月5日(日)
会場:グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボ
https://www.eyesofthestorm.jp