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「LENINGRAD COWARD BOYS」が恵比寿に。写真と文:ハラダ ユウキ (『TRAVIS』店主) #2July 14, 2025
店名『TRAVIS』はヴィム・ヴェンダース監督の映画『パリ、テキサス』(1984年)の主人公の名前に由来しています。
「1番好きな映画は?」と聞かれたらこれまでは迷わず『パリ、テキサス』と答えてきました。でも、フィンランドの監督、アキ・カウリスマキの映画に出合ってからその答えが少し変わったんです。
3年ほど前、休日に知り合ったおじさまたちから立て続けにカウリスマキを紹介されたんです。名前は知っていたけれど作品はまだ観たことがなかった僕に、まずは『浮き雲』(1996年)をと。それが僕とカウリスマキとの最初の出合いです。ある程度の年を重ね、社会の中でどうにもならない現実に直面することが増えていく中で、「人生って辛いことが多いけど、ちょっとした幸せもちゃんとあるよ」と示してくれるような映画でした。
カウリスマキの他の作品をすべて観終えた時期には、彼はすでに監督引退を宣言していたんです。だから、引退を撤回して6年ぶりの復帰で撮った『枯れ葉』(2023年)は、新たな1本を待っていた僕にとって本当に特別な作品となりました。 この映画の素晴らしさは監督の次に、そして日本では1番に語れる気がしてます! 誰にも負けません!笑 "気付き"を得ることや、感じることが映画を観る醍醐味だと思っていて、そのすべてが詰まった集大成の作品かと思います。
それほどに愛する『枯れ葉』ですが、『TRAVIS』の1周年記念で作ったTシャツでは同監督の別作品『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(1989年)をあえて選びました。

お店の名前の由来でもある"1番大切な映画"の『パリ、テキサス』がロードムービーであることにちなんで、彼のロードムービーの代表作でもあるこの作品をモチーフに。
リーゼントにサングラス、スーツにとんがりブーツ、そんな格好をしたロシアの農夫たちが組んだ大所帯のアマチュアバンドがアメリカでの成功を目指して旅に出る物語。
他の人気作品とは少し異なり、暗さは一切なく、コメディに振り切った1本で、初めてカウリスマキ作品を観る人にもおすすめです。脚本家の坂本裕二さんもお気に入りの映画なのだとお客さまが教えてくれました。劇中、中古車ディーラー役として盟友ジム・ジャームッシュが登場するのも見どころのひとつ。
この作品をテーマに決めた理由は、本国フィンランドでの公開日と『TRAVIS』のオープン日がまさかの同じ3月24日だったこと。しかも公開年の1989年とその2023年は暦までぴったり同じで、どちらも日曜日。そんな巡り合わせを知り、運命めいたものを感じて。
あと、カウリスマキ監督の作品はほぼ無地の衣装が多い中で、『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』では珍しくグラフィックTシャツを着ているキャラクターがいたこと。フロントプリントはそのキーマンとなるキャラクターが着ているベースボールTシャツをベースに、背面にはメンバーが巡るライブハウスなどを羅列したスケジュールを記して、架空のツアーTシャツとしてデザインしました。彼が経営する映画館「キノ・ライカ」の名前の由来となった犬も、ちゃっかりアクセントに。しかもその映画館の共同オーナー・ミカもこのTシャツを持っているんです。(詳しくは店頭で☆)
バンド名は「LENINGRAD COWBOYS」ではなく「LENINGRAD COWARD BOYS」にしました。これは劇中序盤、バンドメンバーたちがアメリカ行きの飛行機の中で悪徳マネージャーに「英語を覚えろ」と辞書を渡され、そのうちのひとりが「COWARD(臆病者)」とぼやく場面から引用しています。映画の続編『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』(1994年)内でもこの言葉が登場していて、カウリスマキのお気に入りのワードなんだと思います。
ツアータイトルは劇中の転換時に都度映し出される「All you need is love」にちなんで「All you need is cinema」に。
サポートアクトに添えたのは架空のバンド「SMALL POTATOES」。初期作『パラダイスの夕暮れ』(1986年)に出てくる、カウリスマキ作品で1.2位を争うほどロマンチックに感じた台詞から引用。さぁ、気付く人がいるかしら?
『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』の劇中の様々な台詞ややりとりを比喩しながら詰め込んだこのTシャツ。カウリスマキの映画を観るきっかけに、そして観ている最中のふとした気づきのヒントになってくれたら嬉しいです。

『TRAVIS』店主 ハラダ ユウキ
