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暑い日こそ、静かな映画を。『フォーチュンクッキー』を映画館で。写真と文:ハラダ ユウキ (『TRAVIS』店主) #1July 07, 2025
『TRAVIS』では、「映画館に着ていく服」をコンセプトに、映画とコラボレーションしたTシャツを制作しています。今回はその第3弾として、2025年6月27日(金)に公開されたばかりの映画『フォーチュンクッキー』と一緒につくったTシャツのお話を。

この映画との出合いは、配給会社『ミモザフィルムズ』さんからのひと言がきっかけでした。
「初期のジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキの雰囲気があるから、ハラダさん、きっとこの映画、合うと思います」
そう言っていただいて、すぐに「観たいです」と返したのを覚えています。今、新作でモノクロ映画というだけでも珍しいのですが、その映像の中に、印象的にピンクのアクセントが差し込まれていて。映画全体の空気感が、僕の大好きな『フランシス・ハ』(2012)を思い出させるものでした。
初期のジム・ジャームッシュやアキ・カウリスマキの雰囲気、と聞いて、みなさんはどんなイメージを思い浮かべますか?
ジム・ジャームッシュの初期作品で言えば、デビュー作の『パーマネント・バケーション』(1980)をはじめ、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)、『ダウン・バイ・ロー』(1986)など、モノクロで撮られた印象的な作品がいくつもあります。中期以降はカラー作品が増えていきますが、僕はやっぱり、彼のモノクロ作品が放つ独特の空気感がとても好きなんです。
そして、僕が一番好きな監督がアキ・カウリスマキ。彼の作品は、音数が少なく、セリフも多くなくて、BGMもほとんど流れないくらい、“オフビート”な映画ばかり。でも、だからこそ登場人物たちの内面の揺らぎが、余白を通してしっかりと伝わってくる。そういう静かな感情の揺れを描く作品が、僕は昔から好きなんですよね。
『フォーチュンクッキー』は、アフガニスタンからアメリカへと移住した女性が、静かに、でも着実に変化していく90分の物語。
今回のコラボTシャツのデザインでは、主人公が変化を受け入れるきっかけとなる“コーヒー”を、バックプリントのキーワードとして取り入れました。
Tシャツはいつもの自店オリジナルアイテム同様、シルクスクリーンで一枚一枚刷っています。デザインモチーフは2つ。ひとつは、劇中で象徴的に登場する“鹿”。もうひとつは、“コーヒー”です。

主人公の生まれの地であるアフガニスタンでは、「コーヒーを差し出す」という行為が、おもてなしや受け入れの象徴なんだそうです。彼女はある理由から、長いあいだコーヒーを飲めずにいました。誰にすすめられても断ってきたその一杯を、異国の地で初めて口にする。異国で生きる彼女が、ようやく人のあたたかさに触れ、変化を受け入れ、そして誰かの胸にそっと甘えていく。そんなラストシーンを受けて、背面プリントにはジム・ジャームッシュのあのモノクロ映画をオマージュしたメッセージを追加した店舗限定バージョンも制作しました。
また、映画館限定で販売されるのは、水色ボディにフロントプリントのみをあしらったバージョン。こちらもぜひ、映画館でチェックしてみてください。

うだるような暑さのはじまりに、映画館でひと休みを。館内のクーラーで冷えるから、ホットコーヒーにしてみるのもいいかもしれません。ほっと一息つける、そんな映画です。
『TRAVIS』店主 ハラダ ユウキ
