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アムステルダムでのポップアップ準備記。写真と文:壱岐ゆかり (フローリスト) #4July 22, 2025

「ここどう? いいと思うんだけど」

そう言ってアムステルダムであれこれコーディネートしてくれるのは、20歳以上も年の離れたRen。彼女が連れてきてくれたのが『droog amsterdam』。

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私の社会人としての原点は、インテリア業界だった。モノを空間として捉える感覚や、人とのコミュニケーション、そして“伝える”という行為の中で、どれだけの熱をもって、どんな言葉で伝えるのか。そんなことを、とんでもない濃度で体験させてもらった10年弱。

その職場で働き始めて半年あまりで訪れた、初めての海外出張が「ミラノ・サローネ」だった。そこで目にして、会って、味わって、触発されたもののひとつが『droog amsterdam』だった。

だから、25年という月日を経て、『droog amsterdam』に連れてきてもらった瞬間の気持ちは、どう表現したらいいだろう。ブランドらしい商品、飾り方、色づかいに囲まれて、懐かしい気持ちがふっと蘇る。

私がお世話になっていた今はなき最初のインテリアショップは、南青山の『BLUE NOTE TOKYO』の目の前にあった。あの店が今も続いていたら、きっとこんな空間になっていたんじゃないか。そう思えるほど、心地よいオーラに包まれていた。観光客に押しつぶされることもなく、お客さんたちが、ゆったりと時間を過ごしていた。

「ここか~、なるほど~! 原点回帰ってことだな。挑戦っていうか、これはもう一度、自分に戻ってくる“修行”だ……」

そんなふうに、ひとり噛みしめながら、6月28日に開催した一日だけのポップアップショップ。これまでの間、草花が内包する色に共鳴しあったWONDER FULL LIFEとともに、濃厚な内容の話を共有できたお客さんとの時間は、おそらく忘れられない記憶になる気がしています。

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『droog amsterdam』のone-day ポップアップが終わった後は、『forever flowers』というアーティフィシャルフラワーのお店でポップアップショップ。

アーティフィシャルフラワーに囲まれる数日間は不思議な時間。

花=Flower=切花だけではなくなった時代。
花=Flower=切花、紙花、造花、レゴ花、ダンボールチップ花、などなど。花とは?

花の提案をするにあたり、前に進む進化ではなく、今を大事に深める“深化”を私たちなりに何をどうしようか?を考えることが多くなっています。

東京の『The Little Shop of Flowers』のスタッフ、千恵子にも来てもらい、一緒に“初めて”を体験した日々。

東京では一人ひとりのスタッフとじっくり二人で話すこともできない日々だったけど、今回アムステルダムで、改めてじっくりいろんな価値観について話し合えることが嬉しい。

そんな6月が終わろうとしていたある日。猛暑がアムステルダムにも訪れ、そんな猛暑日は、飲食店で飲食するより、ショッピングするより、何よりも、とにかく、町のみんなは何かの命令を受けたかのように、光合成をし始めた。水がある至る所で、入水しているし、芝生という芝生で水着になって光合成している光景は、なんとも微笑ましい。働く、消費する、お金を貯める、自分を彩る、よりも、必要なのは、光合成。と言わんばかりに、

そんな夏日となった日に、アムステルダムのラーメン屋『Hinata』の女将に誘われて、ラーメン屋スタッフとともに、ボートハウスで光合成。

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夕日を体いっぱいに浴びて、深呼吸をして、運河の流れに身を任せる生活。何か頑張ろうって思っていた勢いが、ふわっと解ける。何を頑張るんだろう? 頑張ろうってなんだろう?

日中に太陽のシャワーをいっぱい浴びて、私も光合成1年目。己の切磋琢磨と同じくらい、みんなで光合成は気持ちいい。

そして、毎日家から見える夕陽はこれがもしかして“生きやすい”ってこと?って考えられる時間を学んでます。

自然がいて、私たちがいる、それを感じる暮らしに身を置きながら。

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フローリスト 壱岐 ゆかり

iki_profile
いき・ゆかり/横浜市生まれ、カリフォルニアで高校大学を過ごし大学卒業後、東京へ。インテリアデザインとPRの分野でキャリアをスタートした後、2010年に東京・代々木上原に花屋『THE LITTLE SHOP OF FLOWERS』をオープン。原宿キャットストリート店、明治神宮前店、渋谷パルコ店、そして祐天寺路面に、店舗を移動しながら、日本の和花の静かな気品と西洋の花々を織り交ぜた表現で活動。2025年、息子と二人、花の町オランダ・アムステルダムでの拠点をスタートしたばかり。

instagram.com/thelittleshopofflowers

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