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春の海、ここになくともある電線。 連載コラム : 石山蓮華 #4January 27, 2025
この頃では目の前にあるものから逆算し、電線でないものを観念的に電線と見なす「みなし電線」も見えるようになってきた。
新年を迎えると、街には箏曲「春の海」があふれる。
ラジオの新春特番でも、初詣に行ったお寺や神社でも、買い出しに出たスーパーでもあのイントロが聞こえ、正月気分をことさら盛り上げてくれる。琴だけに。
一月の街には、みなし電線チャンスが転がっている。
まずは、琴のつくりを見てみよう。13本の弦を支える白い琴柱(ことじ)も上から下に向かって広がる形。ビール瓶と同じく、これまた送電鉄塔のように見える。
弦は音というエネルギーをつなぐ線、電線は電気エネルギーを繋ぐ線だ。そうなると、琴の弦も電線みたいなもの、いわばみなし電線の一つである。
さて、みなし電線はまだまだこの世の至るところに架線されている。
私たちの街にも、頭上の空にも暗やみの中にポツポツと街明かりや星の光がともる。家々の明かりと灯りをつなぐ電線と同じように、星々をつなげる星座の線。光る点と点を線でつなげ、神話や生活という物語が生まれる。ということは、星座の線も電線のようなものだと言えるのではないか。
世界は電線でつながっているといっても過言ではない。いや、本当に!
photo:Renge Ishiyama edit : Sayuri Otobe
電線愛好家、文筆家、俳優 石山 蓮華
1992年生まれ。TBS ラジオ『こねくと』(毎週月〜木曜日14:00〜17:30放送)メインパーソナリティ。電線愛好家として『タモリ倶楽部』などのメディアに出演するほか、日本電線工業会公認“電線アンバサダー”としても活動。著書に『犬もどき読書日記』(晶文社)、『電線の恋人』(平凡社)。