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山梨市と甲州市で出合った、日常の中に果物がある風景。写真と文:仁科勝介 (写真家) #2September 10, 2025
旅をしていると、まったく観光地ではないところに、様々な農地があることに気づきます。
代表的な水田にとどまらず、新潟ではレンコン畑を見たり、岩手や秋田ではビールの原料になるホップ畑を見たり、青森ではりんご畑、和歌山や愛媛ではみかん畑など、農作物と土地が繋がりあっていることを肌で感じます。あたりまえですが、食卓に届くひとつひとつに、そうした背景があるのだと。
そのなかでも印象に残った場所は、山梨市と甲州市です。
いずれも、甲府盆地の平野部と傾斜地を有しており、特に傾斜地においては、たくさんのぶどう畑が広がっています。観光農園ではない場所でもぶどう畑はほんとうに多く、住宅地の間にぶどう畑があったりして、生活の中にこれだけ溶け込んでいるのだと、驚きと感動の気持ちでいっぱいでした。
きっと、地元の方々は、ぶどう畑と過ごす四季を知っていることでしょう。私が見た、ぶどうの葉からこぼれた木漏れ日が、キラキラと地面に輝いている光景以外にも、たくさんの美しさがあるのだろうと思わずにはいられません。
また、甲州市の塩山駅前を散策していた時、立派な日本家屋に無数の橙色の柿が干されているのを見つけました。
家屋の係の方に話を伺うと、そこは「甘草屋敷」と呼ばれていて、特に『乾徳山 恵林寺』という有名なお寺がある地域では、11月から12月にかけて、「ころ柿」という干し柿作りのために、たくさんの柿が干されている風景を見ることができると。
屋敷の中でリラックスしながら眺める「ころ柿」の風景は、柿の自然な色合いといい、柔らかな光を浴びる姿といい、心に刻まれる美しさがありました。初めて見た光景でしたが、この地域ではこうした風景が毎年広がっていると思うと、懐かしさと嬉しさが湧き上がり、日本の風土がつくりだす素朴な美しさというものは、どれだけ時代が進んでも、色褪せない大切なものがあると感じられました。
もちろん、そういった農作物がつくりだす風景、風物詩というものは、私が知らないだけで、日本中、世界中に無数にあるのだと思います。店頭に並ぶ美しい農作物に限らず、その背景に触れる機会に恵まれると、時間や土地に膨らみができ、愛着の念が増し、それは暮らしの心地よさにも、繋がっていくような気がします。
edit:Sayuri Otobe