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懐かしい記憶をたどる、夏のプレイリスト「Summer of nostalgia」。 写真と文:靱江千草 (〈バウト〉デザイナー)August 08, 2025

懐かしい記憶をたどる、夏のプレイリスト「Summer of nostalgia」。 文:靱江 千草 (〈バウト〉デザイナー)
2024年7月のロンドンのバスから。

年々暑くなる夏……皆さまはいかがお過ごしですか。どうやって夏を乗り切ろう、と毎年同じことを考えているような気がします。

さて、こうして『&Premium』のコラムの機会をいただき、僭越ながら、プレイリストと気まぐれなダイアリーにお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

これを綴っている現在の私はと言いますと、自ブランド〈バウト〉の2026年春夏の展示会が終わったばかりの土曜日。その直前は、間を開けずに、パリとミラノの生地展へ出張。休まず完走と言いつつ、展示会中の朝は遅れ気味……やっとひと休みできるかしら! というタイミングで、間髪入れずに届いたのがエディターさんからのメール。

「え、そんな日程まで決まってた? やー、やらねばならぬ。プレイリストなんていつでも作ってやるさ。汗汗」

……なんて、私が恐れおののいている様子を察して、エディターさんからは「暑さを和らげる涼やかなジャズ」「暑さを乗り切るためのUKロック」など、優しいお題の提案をいただきました。でも、そういうお題は、その道に長けたプロの方だからこそライトにやれる範疇でして……。私なんぞ、ただの音楽ファンが取り組むと、きっとヤケドする。

そんなわけで、おそらく人生で最初で最後の音楽コラムになるであろう、集大成&思い出遍歴になりました。

最近少し疲れ気味というのもありますが、ノスタルジーな選曲で行かせていただきます!

長い夏ですが、私の好きな夏は終わりかけの頃。ひぐらしが鳴いていたり、暑くなりすぎた夜にふと吹くからっとした風、冬よりも旅に出た記憶。「フジロックフェスティバル」や「サマーソニック」、叔母や母の庭いじり……。そんな夏の思い出と、夏には関係ないけれど両親が大昔にデートで観たコンサートへの想いを馳せて、極私的でまとまりがなく恐縮ですが、お届けしたいと思います。

Summer of nostalgia💿

「郷愁に耽る夏」になぞらえてリストアップ。まずは、最初の5曲から。

#1 The Stone Roses 「Waterfall(Remastered 2009)」
今となっては叱られる、2012年の「フジロックフェスティバル」。どうしてもザ・ストーン・ローゼズを観たくて、臨月だった私は「厳戒態勢!」「胎教!」なんて言いながらお腹を隠して現地に……。友人たちが優しくサポートしてくれました。お腹にいた息子も、今や中学1年生に。

#2 My Bloody Valentine「When You Sleep」
2008年「フジロックフェスティバル」のグリーンステージ。ベースとギターの音、ドリーミーなボーカルが山の中に響きわたり、心を激しく揺さぶるような轟音シューゲイザーは、最高の衝撃と陶酔感。泣きそうになった思い出。いや、泣いていました。そんなピュアな気持ちにさせてくれます、マイブラは。

#3 The Verve「Sonnet」
同じく2008年の「サマーソニック」にて。ボーカル、リチャード・アシュクロフトの御光が射すような佇まい。あんな人がこの世にいるなんて……と、圧倒的なパフォーマンスに魂を全部持っていかれたステージ。あの姿を観られたのは、人生の宝物。もちろん「Bitter Sweet Symphony」では会場全体が大合唱。弾き語りした「Sonnet」も深く記憶に残っている名曲。最後まで現実とは思えない夢を見ているかのようなライブでした。

#4 Beck「Where It's At」
1996年のアルバム『Odelay』。この頃の自分は、ファッションまっしぐらに服飾を学んでいました。懐かしい。ベックは一番シャレているのに、どこか抜けたダルさがあって大好きでした。ジャミロクワイの「Virtual Insanity」も、まさにこの頃。

当時のレコードショップは、インディーレーベルやアンダーグラウンドな音楽を積極的に紹介していて、マニアックなものを自分も漁っていた気がします。フリーソウルのコンピレーションも多く出ていて、「ザ・渋谷系」カルチャーがまさにピークの時代。服飾学生たちのクラブイベントなどによく出没しました。そこでハッピー・マンデーズやプライマル・スクリームが、ジャクソンファミリーとミックスされた曲が流れたりして。そのうち、ブラーの「Song 2」が出てきた時には、この甘いイケメンフェイスをすっかり食わず嫌いしていた自分も、初めてカッコいい! と思えたり。

そんな私は、昼はオリーブ少女、夜はグランジファッション。お金は余裕が無かったので、下北沢や町田で古着を調達していました。服飾科の課題に追われながらも、無理してでも遊んでいた日々。古くからある名盤や音楽にもっと触れたい、知りたいという気持ちはありながら、そこに費やす金銭は及ばず………知見もまだまだ浅かった。

#5 Saint Etienne「Only Love Can Break Your Heart」
ベックと同じく、当時のクラブカルチャーシーンと並走していたセイント・エティエンヌは、レコードショップによく置かれていた手書きのライナーノーツを見て知りました。でもへビロテするほどではありませんでした。

というのも当時の私は、「マニアックなのがオシャレ」をポリシーのようにして、メジャーなヒット曲を少し敬遠していた節もあり、入手したセイント・エティエンヌの音楽は好みでありつつもオシャレすぎる印象で、日常の葛藤や未熟さを抱えていたその時の私は、もっと自分の魂に響く曲をずっと求めていた気がします。後にジョン・レノンが私の魂核ソングとなります。とはいえ、音楽を深掘りできなかったジレンマ。今改めて聴いてみると、その時のムードや若かりし頃が思い起こされ、ピュアでたまらなく愛おしい曲。すっかり年月を経た自分を実感します。

#2では、ビートルズの「Penny Lane」や、憧れの細野晴臣さんの大好きな5曲を紹介します。


〈バウト〉デザイナー 靱江 千草

靱江 千草
様々なセレクトショップやファッションブランドのオリジナルデザインを担当した経歴を持ち、結婚、出産、育児を経験したのち、オリジナルブランド〈BOWTE(バウト)〉を立ち上げる。幼い頃、影響を受けた父や母の洗練された「着こなし」や自身の愛する音楽やアート、カルチャーシーンをクリエイションに反映させ、奥深さが問われる新たな時代に、想いのある丁寧で妥協のないものづくりを提供。強さと夢を持ち合わせる「凛」とした女性の姿をファッションを通し、追求し続けている。

bowte.jp

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