&EYES あの人が見つけたモノ、コト、ヒト。
懐かしい記憶をたどる、夏のプレイリスト「Summer of nostalgia」。 写真と文:靱江千草 (〈バウト〉デザイナー)August 08, 2025

年々暑くなる夏……皆さまはいかがお過ごしですか。どうやって夏を乗り切ろう、と毎年同じことを考えているような気がします。
さて、こうして『&Premium』のコラムの機会をいただき、僭越ながら、プレイリストと気まぐれなダイアリーにお付き合いのほどよろしくお願いいたします。
これを綴っている現在の私はと言いますと、自ブランド〈バウト〉の2026年春夏の展示会が終わったばかりの土曜日。その直前は、間を開けずに、パリとミラノの生地展へ出張。休まず完走と言いつつ、展示会中の朝は遅れ気味……やっとひと休みできるかしら! というタイミングで、間髪入れずに届いたのがエディターさんからのメール。
「え、そんな日程まで決まってた? やー、やらねばならぬ。プレイリストなんていつでも作ってやるさ。汗汗」
……なんて、私が恐れおののいている様子を察して、エディターさんからは「暑さを和らげる涼やかなジャズ」「暑さを乗り切るためのUKロック」など、優しいお題の提案をいただきました。でも、そういうお題は、その道に長けたプロの方だからこそライトにやれる範疇でして……。私なんぞ、ただの音楽ファンが取り組むと、きっとヤケドする。
そんなわけで、おそらく人生で最初で最後の音楽コラムになるであろう、集大成&思い出遍歴になりました。
最近少し疲れ気味というのもありますが、ノスタルジーな選曲で行かせていただきます!
長い夏ですが、私の好きな夏は終わりかけの頃。ひぐらしが鳴いていたり、暑くなりすぎた夜にふと吹くからっとした風、冬よりも旅に出た記憶。「フジロックフェスティバル」や「サマーソニック」、叔母や母の庭いじり……。そんな夏の思い出と、夏には関係ないけれど両親が大昔にデートで観たコンサートへの想いを馳せて、極私的でまとまりがなく恐縮ですが、お届けしたいと思います。
Summer of nostalgia💿
「郷愁に耽る夏」になぞらえてリストアップ。まずは、最初の5曲から。
#1 The Stone Roses 「Waterfall(Remastered 2009)」
今となっては叱られる、2012年の「フジロックフェスティバル」。どうしてもザ・ストーン・ローゼズを観たくて、臨月だった私は「厳戒態勢!」「胎教!」なんて言いながらお腹を隠して現地に……。友人たちが優しくサポートしてくれました。お腹にいた息子も、今や中学1年生に。
#2 My Bloody Valentine「When You Sleep」
2008年「フジロックフェスティバル」のグリーンステージ。ベースとギターの音、ドリーミーなボーカルが山の中に響きわたり、心を激しく揺さぶるような轟音シューゲイザーは、最高の衝撃と陶酔感。泣きそうになった思い出。いや、泣いていました。そんなピュアな気持ちにさせてくれます、マイブラは。
#3 The Verve「Sonnet」
同じく2008年の「サマーソニック」にて。ボーカル、リチャード・アシュクロフトの御光が射すような佇まい。あんな人がこの世にいるなんて……と、圧倒的なパフォーマンスに魂を全部持っていかれたステージ。あの姿を観られたのは、人生の宝物。もちろん「Bitter Sweet Symphony」では会場全体が大合唱。弾き語りした「Sonnet」も深く記憶に残っている名曲。最後まで現実とは思えない夢を見ているかのようなライブでした。
#4 Beck「Where It's At」
1996年のアルバム『Odelay』。この頃の自分は、ファッションまっしぐらに服飾を学んでいました。懐かしい。ベックは一番シャレているのに、どこか抜けたダルさがあって大好きでした。ジャミロクワイの「Virtual Insanity」も、まさにこの頃。
当時のレコードショップは、インディーレーベルやアンダーグラウンドな音楽を積極的に紹介していて、マニアックなものを自分も漁っていた気がします。フリーソウルのコンピレーションも多く出ていて、「ザ・渋谷系」カルチャーがまさにピークの時代。服飾学生たちのクラブイベントなどによく出没しました。そこでハッピー・マンデーズやプライマル・スクリームが、ジャクソンファミリーとミックスされた曲が流れたりして。そのうち、ブラーの「Song 2」が出てきた時には、この甘いイケメンフェイスをすっかり食わず嫌いしていた自分も、初めてカッコいい! と思えたり。
そんな私は、昼はオリーブ少女、夜はグランジファッション。お金は余裕が無かったので、下北沢や町田で古着を調達していました。服飾科の課題に追われながらも、無理してでも遊んでいた日々。古くからある名盤や音楽にもっと触れたい、知りたいという気持ちはありながら、そこに費やす金銭は及ばず………知見もまだまだ浅かった。
#5 Saint Etienne「Only Love Can Break Your Heart」
ベックと同じく、当時のクラブカルチャーシーンと並走していたセイント・エティエンヌは、レコードショップによく置かれていた手書きのライナーノーツを見て知りました。でもへビロテするほどではありませんでした。
というのも当時の私は、「マニアックなのがオシャレ」をポリシーのようにして、メジャーなヒット曲を少し敬遠していた節もあり、入手したセイント・エティエンヌの音楽は好みでありつつもオシャレすぎる印象で、日常の葛藤や未熟さを抱えていたその時の私は、もっと自分の魂に響く曲をずっと求めていた気がします。後にジョン・レノンが私の魂核ソングとなります。とはいえ、音楽を深掘りできなかったジレンマ。今改めて聴いてみると、その時のムードや若かりし頃が思い起こされ、ピュアでたまらなく愛おしい曲。すっかり年月を経た自分を実感します。
#2では、ビートルズの「Penny Lane」や、憧れの細野晴臣さんの大好きな5曲を紹介します。
〈バウト〉デザイナー 靱江 千草

→ bowte.jp