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忙しさを楽しむ、自然に囲まれた移住暮らし。写真と文:長谷川 ちえ (『in-kyo』店主、エッセイスト) #4September 23, 2025
チクッというより、「熱っ!」。
蜂に刺されたことがある人なら、この感覚をわかってもらえるのではないでしょうか。
この夏、二度もアシナガバチに刺されてしまいました。

初めは草刈り中に、二度目は部屋に飾る紫陽花を切ろうとした時に。私の右手をめがけて、ものすごい速さで飛んできたかと思うと、電気が走ったような「熱っ!」。すぐさま流水で冷やし、ビワの葉エキスやアロマオイルで応急処置。大事には至らなかったものの、腫れとひどい痒みがしばらく続いていました。
そんな目に遭っておきながら、凝りずに庭の手入れをしたり、ささやかに実り始めたトマトやキュウリに嬉々としたり。毎年律儀に花を咲かせる白いムクゲに和まされながら、忙しい日々を過ごしています。

「田舎は時間の流れがゆったりしている」とよく言われます。私も福島・三春で暮らすまではそう思っていました。けれども実際は、庭仕事や畑仕事の合間に、こうして蜂に刺されたり、梅干の土用干しに干柿や味噌作りといった季節仕事など、天候や気温にオロオロと翻弄されながら1年があっという間に過ぎていきます。
『in-kyo』の営業もあるし、おまけに3匹の猫たちの世話も……。1日24時間では足りないくらい目まぐるしい毎日。それでも、この忙しさはどれも自分が好きで選んだもの。クタクタになっても、「疲弊」とは種類の違う、心地良い疲れとでもいうのか。あれこれ手放してしまえば、時計の針はゆっくり進み始めることでしょう。けれども、たぶん今の暮らしの速度感が自分にはしっくりくるのです。
時間の流れに追われて忙殺されないためには、未来のことを考えながら、足元に気を配り、“今”に集中する。草刈りなどはちょうどいい作業です。
作業に集中していると、プカプカと頭に浮かんできた余計なことは、いつの間にか風に吹かれて飛んでいってしまいます。雑草だらけだった庭の草刈りは、コツコツ進めていくうちにトランス状態に。ふうっと、ひと息ついて振り返ってみれば、思いがけない達成感に包まれます。そんな時は素直に自分で自分を褒めてあげて、自己満足に気分よく浸るのです。

春に撒いた種が芽を出し、庭のあちこちで花を咲かせ、実をつける。来年はああしよう、こうしよう。5年後にはこんな庭になったらいいなと思いを巡らせて。
「暮らし」とは家の中のことだけではなく、窓からの眺めもその延長なのだと、今の平屋で暮らすようになってからしみじみ感じます。人間は、あくまで自然の一部にすぎないとわきまえつつ、窓の向こうに絵を描くように、自分の手で暮らしを作り上げていく。その絵の完成はいつになるのやら。簡単には完成しないからこそ、毎年同じようなことを飽きもせず、忙しさも楽しみながら繰り返しているのかもしれません。
edit:Sayuri Otobe
『in-kyo』店主、エッセイスト 長谷川 ちえ
