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不均一だからこそ、美しいもの。編集後記「美しい、ということ」September 20, 2025

不均質だからこそ、美しいもの。編集後記「美しい、ということ」
先日後輩から、セラミックブランド〈asamono〉のカップをもらいました(ありがとう!)。とりあえず、お気に入りを並べた部屋の一角で出番を待っているところ。LAで作陶するAsami Hatanakaの手の温もりを感じる、ひとつひとつ微妙に異なるフォルムも美しい。

うつくし・い
[美しい]
(形)

心が引きつけられるほど、形や色、音などがいい。きれいだ。
〔その場のようすやおこない、性質などが〕好ましくて感じがいい。うるわしい。
『三省堂国語辞典 第七版』より

 秋冬のファッションとライフスタイルの特大号となる今回のテーマは「美しい、ということ」。住まいや装い、日用品、言葉、映画、生き方……など、様々な視点から「美しい」について考えました。

 16Pのボリュームで〈ミナ ペルホネン〉の美しいものづくりをひもといたブック・イン・ブック企画の取材中、皆川 明さんは「美しいという状態は、不均一さや揺らぎなど、ある種の不完全さによって生まれる」と語ります。また、セルフリノベーションした築100年ほどの古民家で美しい工芸品に囲まれて暮らす、華道家の片桐功敦さんは、「原始的で粗野な雰囲気を持つ、洗練されすぎていないものに惹かれます」と、もの選びの基準を教えてくれました。「美しい」という言葉に、どこか完璧なシルエットやデザインを思い浮かべていた自分にとっては、それらの言葉がとても印象に残った取材でした。下の動画は、皆川さんと一緒に訪れた〈神奈川レース〉にて。機械なのに、手で刺したような曲線的でゆらぎの刺繍が出来上がっていく様子が美しかったです。

 不完全なものに美を見出すのは「わびさび」に代表される日本独自の世界観なのかなと思いつつ、表紙になったフィンランドのデザイナー、カイ・フランクの色鮮やかなプロダクトについて調べていると、吹きガラスによる揺らぎのある独特なニュアンスが当時から高く評価されていたことが分かったりと、とにかく「美しい」は奥深く、だからこそ考えることが楽しいテーマでもありました。

 「美しいってこういうことだよね」と、偉そうに断言したい特集ではありません。でも、人それぞれの美の基準に触れて、自分にとっての「美しい」を考えるきっかけとなる一冊になったと思います。辞書で説明されていることだけではない、奥深い「美しい」の世界を、一緒に学んでみませんか。

(本誌編集部/利根正彦)

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