FOOD 食の楽しみ。

料理人・野村友里さんと生産者が出会って生まれた、栃木・益子の食材をふんだんに使ったカフェ『スターネット』の発酵クレープ&ガレット。August 13, 2025

時間をかけて丁寧に発酵させた、もっちりとした食感のサワードゥ・クレープ&ガレット。

左下/自家製の「キスミルアイス」をトッピングした、「ブルーベリーとパッションフルーツ サワードゥ・クレープ」 (¥1,500) 。右上/オリジナルの和紅茶をじっくり発酵させた「発酵スパークリングティー」 (¥700) は酸味が効いていて、料理ともよく合う。
左下/自家製の「キスミルアイス」をトッピングした、「ブルーベリーとパッションフルーツ サワードゥ・クレープ」(¥1,500)。右上/オリジナルの和紅茶をじっくり発酵させた「発酵スパークリングティー」(¥700)は酸味が効いていて、料理ともよく合う。

「手の届く範囲で、地域を循環させていく」。今は亡き創業者・馬場浩史さんの思いとともに、1998年に栃木県・益子の地に誕生した複合ショップ『スターネット』。器や日用品を扱うショップに併設されたカフェでは、地元で採れた新鮮な食材を使い、季節ごとに様々なメニューを提供してきた。

2025年2月から、料理人・野村友里さんと、徳島県神山町を拠点に農業を軸とした食の活動を行う〈フードハブ・プロジェクト〉と協働し、新たなランチメニューがスタート。

季節のランチコース (¥2,800) では、メインは2種から選べる。「シャルキュトリとチーズ サワードゥ・クレープ」は程よい厚みで食べ応えもあり、大豆のペーストを添えたパテとの相性も抜群。 季節のランチコース (¥2,800) では、メインは2種から選べる。「シャルキュトリとチーズ サワードゥ・クレープ」は程よい厚みで食べ応えもあり、大豆のペーストを添えたパテとの相性も抜群。 | 季節のランチコース(¥2,800)では、メインは2種から選べる。「シャルキュトリとチーズ サワードゥ・クレープ」は程よい厚みで食べ応えもあり、大豆のペーストを添えたパテとの相性も抜群。
季節のランチコース(¥2,800)では、メインは2種から選べる。「シャルキュトリとチーズ サワードゥ・クレープ」は程よい厚みで食べ応えもあり、大豆のペーストを添えたパテとの相性も抜群。
もうひとつのメインは、「きのこと在来大豆 サワードゥ・ガレット」。使用するきのこ類は、すべて地元産。ガレットは焼き加減にもこだわり、もっちりとした食感を残しつつ、外側はパリッと香ばしく仕上げている。
もうひとつのメインは、「きのこと在来大豆 サワードゥ・ガレット」。使用するきのこ類は、すべて地元産。ガレットは焼き加減にもこだわり、もっちりとした食感を残しつつ、外側はパリッと香ばしく仕上げている。
〈森林ノ牧場〉の発酵バターと、地元産のはちみつを使用した、「はちみつバターと檸檬 サワードゥ・クレープ」 (¥1,200) 。こちらは単品でも注文ができ、デザートとして食後に楽しむのもおすすめ。 | 〈森林ノ牧場〉の発酵バターと、地元産のはちみつを使用した、「はちみつバターと檸檬 サワードゥ・クレープ」(¥1,200)。こちらは単品でも注文ができ、デザートとして食後に楽しむのもおすすめ。
〈森林ノ牧場〉の発酵バターと、地元産のはちみつを使用した、「はちみつバターと檸檬 サワードゥ・クレープ」(¥1,200)。こちらは単品でも注文ができ、デザートとして食後に楽しむのもおすすめ。

今回、野村さんと〈フードハブ・プロジェクト〉チームは、『スターネット』とゆかりのある生産者のもとに直接足を運び、食材に触れながら、その魅力を引き出すようなメニューを考案。そうして生まれたのが、サワードゥのクレープとガレットだ。

「〈フードハブ・プロジェクト〉が手がける徳島県神山町『かまパン』の発酵種を使えたらと思ったんです。すでにおいしい生地があるので、私が新しく開発するのではなく、それをベースに広げられないかと考えました。季節の野菜や果物はその時々のものを、『スターネット』や農家の方と話し合いながら、一緒に作っていきました」と野村さん。

クレープとガレットは、季節のランチコースには2種、定番で3種の計5種。食事系からデザート系までが揃う。生地には、〈フードハブ・プロジェクト〉の発酵種に、益子産の米粉やそば粉を継ぎ足したものを発酵させ、もっちりとした食感に仕上げている。

季節のランチコースで最初に提供される冷製の「野菜のスープ」。〈山崎農園〉で採れたバターナッツかぼちゃを塩のみで味付けした、素朴でやさしい味わい。
季節のランチコースで最初に提供される冷製の「野菜のスープ」。〈山崎農園〉で採れたバターナッツかぼちゃを塩のみで味付けした、素朴でやさしい味わい。
「季節の野菜 まるごとサラダ」は、トマトやきゅうりなど益子周辺の町で採れた新鮮な野菜が使われている。
「季節の野菜 まるごとサラダ」は、トマトやきゅうりなど益子周辺の町で採れた新鮮な野菜が使われている。
左/栃木県産のりんごを使用した、ナチュールシードル (グラス¥900、ハーフボトル357ml ¥1,500) 。右/カフェから徒歩数分の場所に店舗を構える〈ミンゲル〉のクラフトビール (各330ml ¥900) 。左から、柑橘とトロピカルな風味の「ワークインオット」、とちおとめの香りを酸味が広がる「ストロベリー レター 25」、セゾン酵母で醸した黒ビール「シェイズ オブ ジェイ」。 | 左/栃木県産のりんごを使用した、ナチュールシードル(グラス¥900、ハーフボトル357ml ¥1,500)。右/カフェから徒歩数分の場所に店舗を構える〈ミンゲル〉のクラフトビール(各330ml ¥900)。左から、柑橘とトロピカルな風味の「ワークインオット」、とちおとめの香りを酸味が広がる「ストロベリー レター 25」、セゾン酵母で醸した黒ビール「シェイズ オブ ジェイ」。
左/栃木県産のりんごを使用した、ナチュールシードル(グラス¥900、ハーフボトル357ml ¥1,500)。右/カフェから徒歩数分の場所に店舗を構える〈ミンゲル〉のクラフトビール(各330ml ¥900)。左から、柑橘とトロピカルな風味の「ワークインオット」、とちおとめの香りを酸味が広がる「ストロベリー レター 25」、セゾン酵母で醸した黒ビール「シェイズ オブ ジェイ」。
大きな窓から差し込む光が店内を包み込む。本棚には、2009年から3年に一度開催されてきた地域づくりの祭り「土祭 (ひじさい) 」のパンフレットや、ゆかりのある生産者たちの関連書籍が並ぶ。 | 大きな窓から差し込む光が店内を包み込む。本棚には、2009年から3年に一度開催されてきた地域づくりの祭り「土祭(ひじさい)」のパンフレットや、ゆかりのある生産者たちの関連書籍が並ぶ。カフェで使われている益子焼の器は、隣接するショップで購入が可能。
大きな窓から差し込む光が店内を包み込む。本棚には、2009年から3年に一度開催されてきた地域づくりの祭り「土祭(ひじさい)」のパンフレットや、ゆかりのある生産者たちの関連書籍が並ぶ。カフェで使われている益子焼の器は、隣接するショップで購入が可能。

料理に使われる野菜は、近隣の農家から届く新鮮なものばかり。また、酵母菌で発酵させた店オリジナルのコンブチャの発酵スパークリングティーや、2024年にオープンしたブルワリー兼ベーカリーカフェの〈ミンゲル〉のクラフトビールなど、ドリンクメニューも充実している。

この土地だからこそ生まれる味。その背景にある生産者の思いに触れる。

風通しの良い牛舎を益子に構える〈森林ノ牧場〉では、放牧に適した25頭のジャージー牛を、一頭ずつ名前をつけて、愛情を込めて飼育している。
風通しの良い牛舎を益子に構える〈森林ノ牧場〉では、放牧に適した25頭のジャージー牛を、一頭ずつ名前をつけて、愛情を込めて飼育している。
牛がストレスなく生活できるよう、搾乳以外の時間は放牧。餌になる牧草は季節ごとに成分が変化するため、ミルクの風味も、夏はさっぱり、冬は濃厚な味わいになるという。
牛がストレスなく生活できるよう、搾乳以外の時間は放牧。餌になる牧草は季節ごとに成分が変化するため、ミルクの風味も、夏はさっぱり、冬は濃厚な味わいになるという。
有機農業を営む〈山崎農園〉の畑。丘陵地や平野など多様な地形を持つ益子は、野菜づくりに適しているそう。ここでは、年間100種もの作物を育てている。
有機農業を営む〈山崎農園〉の畑。丘陵地や平野など多様な地形を持つ益子は、野菜づくりに適しているそう。ここでは、年間100種もの作物を育てている。
〈山崎農園〉のとうもろこしはホワイトコーンを含む3種を栽培。採れたての野菜は『スターネット』や地元の道の駅でも購入できる。
〈山崎農園〉のとうもろこしはホワイトコーンを含む3種を栽培。採れたての野菜は『スターネット』や地元の道の駅でも購入できる。

カフェで使用している乳製品は、〈森林ノ牧場〉から届く。活用されていなかった森林を放牧地として整備し、自然の中で、ジャージー牛を飼育している益子の牧場だ。「酪農を通じて、牛が生む景観や人が集まる場も含めて育んでいきたい」と話すのは、代表の山川将弘さん。野村さんが感動したという、乳酸菌飲料「キスミル」もここで作られたもの。「牛乳よりもさらりとした飲み口で、甘みと酸味のバランスがよく、アイスにするととてもおいしいんです」と野村さん。

一方、料理に使われる野菜の多くは、〈山崎農園〉で育てられたもの。農園を営む山崎喜生さんは、もともと益子で4代目として農業を継いで、益子の野菜を東京の青果店へ拡げるなどの活動をしていた。町の約40%を農地が占める益子では、農業を続けたくても続けられない人も多いという。山崎さんは、そうした畑を引き継ぎながら、「ましこ西洋野菜研究会」活動も展開し、地域の農業を支えている。「土地を荒らさずに守りながら、その土地に合った作物を愛着を持って育てていくこと。山崎さんのその姿勢に尽きると思います」と、野村さんも共感の言葉を寄せた。

上三川町で30年以上にわたり米づくりを続ける上野長一さん。扱う稲は約600種類にもおよび、稲の背丈も品種によって様々だ。購入者一人ひとりに農作業の近況を綴った直筆の手紙を添えるなど、顔の見える関係を大切に育んできたという。
上三川町で30年以上にわたり米づくりを続ける上野長一さん。扱う稲は約600種類にもおよび、稲の背丈も品種によって様々だ。購入者一人ひとりに農作業の近況を綴った直筆の手紙を添えるなど、顔の見える関係を大切に育んできたという。
上野さんが作る「いろいろ米」は、赤米・黒米・香り米など希少種を50種ブレンド。白米に混ぜて炊くと、もちっとした食感がより楽しめる。全国からこの米を求めて上野さんのもとを訪れる人も多い。
上野さんが作る「いろいろ米」は、赤米・黒米・香り米など希少種を50種ブレンド。白米に混ぜて炊くと、もちっとした食感がより楽しめる。全国からこの米を求めて上野さんのもとを訪れる人も多い。

次に訪れたのは、益子から車で30分ほどの上三川(かみのかわ)町にある、米農家・上野長一さんの畑。クレープやガレットのサワードゥに使われている小麦や米粉を、無農薬、無化学肥料で育てている生産者だ。「小麦も米も、そば粉も穫れる。こんなに豊かな場所はなかなかない」と、初めてこの地を訪れた時、野村さんは驚いたという。なかでも、上野さんが作る「いろいろ米」は、約600種の種の中から50種をブレンドした唯一無二の米。ひとつひとつの品種と向き合い、長年にわたり研究を重ねてきた。

「気候風土に恵まれたこの場所が持つ基盤を最大限に生かし、手を加えすぎていないことは大事ですよね。この土地が本来持っている力や、丁寧に受け継がれてきた営みを守る人たちがいることによって、人と自然の循環のバランスがとてもいい町だと感じました。だからこそ、“食”という行為を通して、生産者や土地の記憶に触れることが、町と繋がるきっかけになるのではないかと思います」と野村さん。

こうした生産者の思いを込めたガレットやクレープをメインにしたランチメニューは、この町の新しい郷土料理的な考え方として野村さんは提案したという。住む人も訪れる人も益子をより好きになるような深い味わいを、ぜひ体験してみてほしい。

料理人・野村友里さんと生産者が出会って生まれた、栃木・益子の食材をふんだんに使ったカフェ『スターネット』の発酵クレープ&ガレット。

野村友里 Yuri Nomura料理人

長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。2012年、東京・原宿に『restaurant eatrip』を、2019年に『eatrip soil』をオープンし、活動の幅を広げる。現在は、東京・祐天寺『babajiji house』の2階で『eatrip kitchen』を営む。著書に『とびきりおいしい おうちごはん』(小学館)他。

instagram.com/eatripjournal

Shop Information『スターネット』

自然の恵みをたっぷりと。栃木・益子の『スターネット』で、料理家・野村友里さん監修のランチメニューが新たに登場。

住所:栃木県芳賀郡益子町益子3278-1
営業時間:11:00~17:00(LO 16:30) *ランチメニューは14:00まで
電話番号:0285-72-9661
定休日:水、木

公式サイト

photo : Masanori Kaneshita text:Sayuri Otobe

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