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建築家・中村好文さんが改修した、モダニズム住宅。〈山形緞通〉プロデューサー、渡邊貴志さん・佳子さんの住まい。August 31, 2024

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中村好文が改修した住宅で、生活を考える。

 建築家・中村好文さんが2022年に改修した、三浦海岸の高台に佇む小さな平屋。手描きの図面に「VILLA AKIYA」とある。もとは吉田五十八(いそや)らに師事した木造家屋の建築家・吉田桂二(1930~2015)による51年前の建築。「以前の意匠が若干残り、中村さんが手がけた中では少し珍しい住宅になっています」と語るのは、渡邊貴志さん・佳子さん夫妻。自然に埋もれた古家の佇まいに惚れ込み、憧れの建築家に手紙を書き、思いを伝えた。貴志さんが言う。「雨漏りがすごく、傷みは大変なものでしたが、可能性を見いだしてくださいました」。円熟の域に達した建築家が、頭をひねりつつ面白がって普請を考えた様子が窺える。例えば、高低差のある屋根は変更不可の制約が。

「中村さんの住宅では、まず見られない形状ですが、改修前に屋根に上って『この敷地で海が見えないのはおかしい』と、海を望む物見台を設置されました」。柔らかな光に満たされ、平米数に対し心理的に広々と感じるインフィルに〝らしさ〞も滲む。「『いい住宅はワンルームになりたがる』と中村さんはおっしゃっていて、この家もそれに近いつくり。住まいの中にどんなものや時間を預けても、おおらかに受け止めてくれます」。佳子さんも「自分たちに適正な物量を考え、ダウンサイジングしてきた暮らしの規模がちょうどよく収まりました」と続けた。

 小さく古い住宅と時を重ねてゆくために「一つの机を食事や仕事に用いる〝一机多用〞の考え方や、日本人に合う〝中座〞の暮らし。それらを住まいながら実験し、さらにチューニングしていければ」と二人。自分たちで開発を手がける絨毯を生活に取り入れ、どうあったらいいかを考えることもその一環にある。貴志さんが穏やかに決意を語った。「ものを作る前に、生活や住まいを確かなものとして育めなければ、説得力がありません。そういう意味でも良き住まい手であれるように努力しなくてはと思っています」

リビングの脇に隠し部屋のように設けられた一畳のDEN(ほら穴)は、佳子さんの仕事場。鮮やかなブルーのカーペットを敷き込んであり、足元から心地いい。
リビングの脇に隠し部屋のように設けられた一畳のDEN(ほら穴)は、佳子さんの仕事場。鮮やかなブルーのカーペットを敷き込んであり、足元から心地いい。
吉田桂二渾身の意匠と思しき木枠の出窓があったが朽ち果てており、取り壊してウッドデッキを設置。改修図面には「ガーデンビューテラス」と記されていた。
吉田桂二渾身の意匠と思しき木枠の出窓があったが朽ち果てており、取り壊してウッドデッキを設置。改修図面には「ガーデンビューテラス」と記されていた。
建築当初のままの特徴的な屋根には、海を見渡せる物見台を設置。「ここでぼうっと過ごすのが至福。住まいで感じる心理的な広がりが全然違います」
建築当初のままの特徴的な屋根には、海を見渡せる物見台を設置。「ここでぼうっと過ごすのが至福。住まいで感じる心理的な広がりが全然違います」
1973年築の、母屋と小屋からなる平屋住宅。大黒柱を中心に、回遊性のあるワンルーム的な間取りを作り、寝室を増築した。
1973年築の、母屋と小屋からなる平屋住宅。大黒柱を中心に、回遊性のあるワンルーム的な間取りを作り、寝室を増築した。
建築家・中村好文さんが手がけた居心地のいいワンルーム。〈山形緞通〉プロデューサー、渡邊貴志さん・佳子さんの住まい。

渡邊貴志 / 渡邊佳子〈山形緞通〉プロデューサー / アシスタント

絨毯メーカー〈オリエンタルカーペット〉のブランド〈山形緞通〉のプロデューサーとして、商品開発や広報、プロジェクトマネジメントを夫婦で手がける。

photo : Kohei Yamamoto text : Azumi Kubota illustration : Shinji Abe(karera)

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