INTERIOR 部屋を整えて、心地よく住まうために。
拾った石、海からの漂流物を飾って、愛でる。August 07, 2025
実用本意の道具の良さ、眺めているだけでため息が出る装飾品の素晴らしさ、どちらも理解したうえで暮らしに招き入れた、使って飾れる美しいものたち。
&Premium特別編集(2023年6月発売)「住まいに、美しいものを」より、川島伊和夫さんが集めた美しい石のオブジェをwebで特別に公開します。
自然物にしかない唯一無二の美しさに魅入る。
川島伊和夫さんが石集めにのめり込んだのは、遡ること9年前。期せずして、自宅の軒先で美しい瑪瑙を拾ったことから始まった。
「観葉植物の鉢を替えるときに、鉢の中に石を配置しようと適当な石を探していて。そのときにこの世にこんな美しい石があるのか、と目を開かされたんです」

知識を得ようと石の本を購入。石が拾えるエリアマップに載っていた茨城県の大洗海岸まで足を延ばした。
「当時は目が肥えていないから両手いっぱい50個くらい拾ってきた感じですね。それらを自分のセンスで美しいか否か、を見定める時間がどんどん楽しくなっていきました」
やがて、自宅がある栃木から神奈川県の由比ケ浜、七里ケ浜、三浦海岸辺りまではるばる遠征するように。
「そこでは、シーグラスに出合って。大洗海岸は赤茶系の石が拾えるのに対し、神奈川エリアは青みがかった石が拾えることがわかりました。そんなふうにいろんな海岸の石を比べてみるのがまた面白くて。さらに選りすぐりの石たちを綺麗に飾ろうと、今度は木箱集めに夢中に(笑)」
やがてヴィンテージの木箱、桐箱、敬愛する造形作家の水田典寿が造作したものなど、木目の表情や形が異なる“石の入れもの”が揃った。
「拾った石はテイスト別に区分けして整理しています。例えば丸い瑪瑙、着物の柄のように見える縞模様のもの、ペールカラーのもの、マーブル柄、シュールレアリスム時代のピカソの絵のような柄など、キリがない。じっくり凝視すると、そこにはとんでもない景色が広がっていて、驚かされてばかり。こうした模様や形になるまで、石がどのような時を経てきたのかを想像しただけで感動します。ある人から見たら、ただのガラクタのようにしか見えないかもしれないけれど、自然が作った美しさに勝るものはなかなかないんじゃないか、と。年を重ねてきた今だからこそ深く感じ入るものがあります。きっと『美』に対する感覚やものの見方が変わってきたのだと思います」
ファッションに関わる仕事をするなかで、作り手として日々、新しいクリエイションに挑んでいた若い頃は、エッジがあるものを好んでいた。それは居住空間にもいえること。だが、こうして、自然の美しさに引き込まれていくうちに、家具も味わいのある木製のヴィンテージのものでまとめるようになった。
「木のぬくもりに心が落ち着きます。いちばん大きな収納棚には、水田さんが造作した木箱に石やオブジェ、朽ちた木壁のテクスチャーを寄せ集めて作った立体作品を飾って。そうしたことに没頭していると子どもの頃に自然の中で遊んでいた原初の感覚を取り戻せる気がします。手を動かして試行錯誤する時間は、仕事のことや気がかりなことを忘れられるいい時間でもある。石の柔らかな手触りにも癒やされています」
長い時間をかけて、自分の内側に潜んでいる美的感覚を呼び覚ます。何かを「美しい」と思うその心にこそ、純な美しさが溢れている。

川島伊和夫「エスモード ジャポン」講師
服飾専門学校卒業後〈ヨウジヤマモト〉でモデリストとして勤務。のちに渡伊。帰国後はファッションデザインを教える講師として活動。
photo : Mitsugu Uehara edit & text : Seika Yajima