MOVIE 私の好きな、あの映画。
イラストレーター 服部あさ美さんが語る今月の映画。『グリーンブック』【極私的・偏愛映画論 vol.104】July 25, 2024
This Month Theme一歩、前に進みたくなる言葉がある。
一筋縄でいかない人生を、どう生きるか。
1962年、ジャマイカ系アメリカ人ピアニストであるドン”ドクター”シャーリーが、アメリカ南部でのコンサート・ツアーのために、イタリア系アメリカ人のトニー・ヴァレロンガを運転手兼ボディガードに雇い8週間の旅に出る実話に基づいた映画。
60年代のアメリカ南部といえば人種差別が酷く、黒人たちが自由と平等を訴えた公民権運動が激化した時代。当時黒人はクラッシックを演奏する機会が少なく、またクラッシック専門のドクもレコード会社に「黒人のクラッシック ピアニストはチャンスがない」と説得され、クラッシックにジャズやポップスなど独自のアレンジを取り入れて演奏するようになりました。彼らが巡ったツアールートのルイジアナではジャズ、メンフィスではブルースなど今につながる音楽が生まれた場所でもあります。
私もブルースやR&Bの音楽が好きでルーツや時代背景に興味を持ち、本などを参考にアメリカ南部の音楽地図のようなものを趣味で作っていました。そんな時にこの映画を観たので、その地図と物語の舞台が重なりました。「リトル・リチャード、チャビー・チェッカー、アレサ・フランクリン、サム・クック…」そんなセリフや、ジュークジョイント(南部の音楽酒場)でのライブ、そしてニューオーリンズの祭典テーマ曲であるプロフェッサー・ロングヘアの「Mardi Gras In New Orleans」が流れ、もう大興奮。嗚呼かっこいい。
観ているうちに音楽だけでなく、トニーの無骨でどこか筋が通った愛すべき人柄にも感情移入。ドクはスケジュール管理、洗濯、靴磨きなど運転手以外のことを要求しますが、彼はできることできないことハッキリと伝え、且つマフィアからのおいしい仕事の誘いもキッパリと断ります。清々しい! イラストレーターを生業としている私は、立場関係なくスパッと言えるトニーを羨ましく、たまにこうなれたらなぁなんて思う。
そして二人は旅をしながら、様々な問題にぶつかりつつも経験を重ね変わっていきます。ある晩ドンの知られたくない秘密を目撃したトニーはこう言います。「世の中は複雑さ、いろいろあるよ」と。ここはグッときました。彼もまたイタリア系アメリカ人として一筋縄ではいかない問題を抱えながら生きてきたでしょう。
自分の身の回りの世界も複雑で、小さなことにクヨクヨウジウジと考えすぎてしまうことも。そんな時にトニーの言葉を思い出すと、さてコーヒーでも飲んで次に進もうかなと少し軽やかな気持ちになれるのです。
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『グリーンブック』
Blu-ray:¥2,200(税込)
発売・販売元:ギャガ
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illustration : Yu Nagaba movie select & text:Asami Hattori edit:Seika Yajima