FOOD 食の楽しみ。
東京・立川の隠れ家茶房『ときと』で、時を忘れて和のティータイムを。February 11, 2026
根っからの食いしん坊、ベテランフードライターのP(ぴい)こと渡辺紀子さんがお贈りする厳選うまいものガイド。&Premium144号(2025年12月号)「コーヒーとお茶と、わたしの時間」より、東京・立川の隠れ家茶房『ときと』で味わえる和のアフタヌーンティーを紹介します。
日本茶は偉大だ。達人の卓抜した解説を聞きながら、お茶とともに『オーベルジュときと』のプチ食体験をする。“ヌン活”もここまできたら極まれり。贅を尽くした、でもシンプルな空間で、ココロ鎮まるひとときを過ごそう。
日本茶に魅了される優雅で贅沢な時間。
こんなところにこんな素敵なオーベルジュがあるなんて、夢にも思わなかった。なんていう人、ひとりやふたりじゃあるまい。JR南武線の小さな駅、西国立から徒歩数十歩。門の中を覗くと、白くて長い暖簾が風に揺れている。一歩中に入ると、周囲の音が遮断されたように静か。隠れ家ってこんなとこ? なんてラグジュアリーなんでしょ。
ロンドンでミシュラン二つ星を獲得した懐石料理店『UMU』の総料理長、石井義典さんをプロデューサーに迎え、開業したのは2023年春のこと。彼を慕う世界で活躍するシェフたちを集めた食房、シンプルで落ち着いた空間が広がる4室の宿房、そして今回ご紹介する茶房から成る。宿房はもとより、お高級そうな食房にアタックする前に、まずは気軽そうな茶房から行こうじゃないか、という人もいるとか。ま、そこそこ、お高くはあるんだが。
茶房を預かるのは池谷香代子さん。テキパキしゃきしゃき、カッコいい。『ときと』から歩いて5分の茶舗『狭山園』の3代目でもある。彼女のキャリアがおもしろい。大学を卒業後、働いてお金を貯めてNYへ語学研修に。帰国後、英語にもっと囲まれていたいと横田基地で2年、フィットネスセンター、フードコートなどで働く。さらに、海外で仕事をするとき、自分ならではの日本のプロフェッションを持って臨みたい、それはやっぱり日本茶だろうと、京都の老舗『一保堂茶舗』に入社。一保堂は若い女性が多く、皆、お茶に精通していて、活躍の場も多岐にわたっていた。しかし、海外で働く夢は断ちがたく、5年弱で辞めてカナダ・モントリオールへ。スターバックス傘下のお茶店で働き始める。

1年後、カナダから帰国するなり、南米のコロンビアへ。スペイン語を学び、お茶と急須でワークショップを開き、試飲会をした。なぜ、南米? 「競合がないところがいいと思って」。これがビジネスセンスというやつか。日本茶になじみがない国でも、上質のお茶を正しく淹れると、甘味、旨味を感じてもらえ、そのよさが浸透していった。「草の根のような活動でしたが、2017年には会社を設立。日本と結んで輸入を始めました」。このエネルギー、ね。会社はもちろん、今も健在である。
さて、茶房に戻ろう。茶房の手前はスツールが並ぶバーカウンターのようなつくり。こちらでもお茶が楽しめる。奥にあるのが、我らの空間。足もとは畳。掘りごたつ式のカウンターだ。庭を望む、しっとりしたこの茶室、日本茶専門店『茶方薈 SABOE』が監修したものだ。花にも設えにも、その時季ならではの心遣いがちりばめられている。花は、石井プロデューサーが朝、摘んできてくれたものだとか。何だか、心和むなぁ。
いただくのは3種類のお茶と「茶請箱」がセットになった和のアフタヌーンティー。「始まりのお茶」に始まるコースは約2時間。お茶と食を、池谷さんの流れるような解説とともに、ゆったりと味わう。目の前には一口セイボリーがかわいらしく並んでいる。海苔巻きや手鞠寿司、玉子焼き、季節の漬物など、すぐにでもつまみたくなるものばかり。そして、玉手箱のような箱の蓋が開くと、きゃっ、嬉しい♡ キュートなスイーツがずらり。セイボリーもスイーツも、気鋭のシェフたちが作ったものだけに、旬の食材が盛り込まれ、ひとつひとつ手がこんでいて端正で美しい。
2つ目、3つ目のお茶は茶見本箱に並ぶ10種から2種類選ぶ。シロウトにはチンプンカンプンだけど、丁寧に説明してくれるからご安心を。それぞれが、好みと思われる2種を選ぶと、目の前で、お湯の温度や時間を変えながら三煎まで淹れてくれる。淹れ方次第で、こんなにも味や香りに違いが出るのかと驚いているうちに、知らずしらず日本茶に魅了されていく。出色は宇治の玉露だ(+880円)。茶器からして違う。平らな急須に茶葉7gを入れ、35℃の湯30㏄を注ぐ。待つこと3分。一滴一滴、まさに玉の露が転がり落ちるごとし。一度味わったら忘れられない、細胞にしみわたるような深い滋味。「お茶を淹れるときに大切なのは、お湯の温度、茶葉の量、待つ時間」と池谷さん。まさに。また、茶請箱とお茶を合わせるときには、「お茶の味わいは引き算にして、お茶と食事の両方が引き立つようにしています」と。
日本茶の醍醐味をおいしいセイボリーやスイーツとともに堪能し、お茶の知識を肥やし、心を癒やす贅沢なひととき。“お高い”と書いたが撤回。何物にも代えがたい、優雅で贅沢な時間。プライスレスでした。
Shop Information『Auberge TOKITO』
3種のお茶と「茶請箱」は9000円。茶請箱と抹茶のプランは1万210円。いずれも税サ込。
住所:東京都立川市錦町1−24−26
電話番号:042−525−8888(受付は9時〜18時)
営業時間:ティータイムは11時と13時30分の一斉スタート 火水休 予約はTableCheckなどから。カウンターなので相席は必至。

P(ぴい)
フードライター。本誌連載『&food Pレミアム通信』ほか、さまざまな媒体で執筆を手がける。「その昔、オックスフォード大学に留学していた友人は、一日何杯も紅茶を飲むうち、おでこがピカピカに紅茶光りしたと言っていた。テレ朝『相棒』を見るたび、それを思い出す」
写真/木寺紀雄









































