LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
どこまでもクリーンな一杯を追い求めて。デザインエンジニア、ダグラス・ウェバーさんのコーヒーの楽しみ方。November 17, 2025
コーヒーとお茶にまつわるBetter Lifeのヒントを集めた、&Premium144号(2025年12月号)「コーヒーとお茶と、わたしの時間」より、デザインエンジニア、ダグラス・ウェバーさんのひと息つく時間、そのスタイルを訪ねました。
究極の一杯を淹れるための、ダグラスさんのコーヒーツール。
プロも愛好家も満足する道具、その背景に込められたもの。
コーヒーが好きすぎて、従来にない発想から、最高のプロフェッショナルを満足させる精密な道具を作りたい 。ダグラス・ウェバーさんのそんな決意から誕生したのが、福岡県糸島市を拠点とする〈Weber Workshops〉だ。代表作の電動グラインダー「EG‒1」は、世界のトップバリスタたちが競技の現場で高く評価し、瞬く間に注目を集めた。その後も同社の製品は、最高水準の現場を支える〝プロ仕様〞でありながら、使い手の経験を問わずに豆のポテンシャルを最大限に引き出すツールとして世界中で愛用されている。
アップル社でデザインエンジニアとしてキャリアを積んだダグラスさん。〈Weber Workshops〉のプロダクトは、技術者としての精緻な設計思想と、日常に寄り添う道具としての使いやすさが共存する点に特色がある。例えば「EG‒1」は1目盛5ミクロン単位の粒度調整を可能にし、バリスタがレシピを緻密に組み立てられる革新性を備えている。同時に、挽き残しをほぼゼロに抑える設計は、常に風味の純度を保てるだけでなく、コーヒー豆を無駄にしない 生産者へのリスペクトを体現しているのだ。
加えて新作「BIRD」は、独自の抽出構造によって、誰でも安定した味を楽しめる。だがダグラスさんが求めている本質は「簡単さ」ではなく、「トップレベルの技術を誰もが享受できるようにした」という点にある。プロフェッショナルを満足させることを目的に作られた道具は結果、愛好家にもデイリーな道具として受け入れられている。
製品のどれもが、日々のメンテナンスを前提に半永久的に使えるよう設計されているのも特徴だ。「機械は正しく手入れすれば長く使えます。それは環境に優しいだけでなく、年月を重ねるごとに愛着も深まるのです」とダグラスさんは語る。さらに彼の関心は、豆のトレーサビリティだけにとどまらず、〝道具を誰がどこで作っているのか〞という点にまで及ぶ。豆の生産地の多くは政情が不安定なことに比して、〈Weber Workshops〉の製品は台湾を中心とした国々で製造されており、ユーザーが支払ったお金が独裁体制の資金源になることがないよう、配慮されている。 「支払ったお金が最終的にどこに還元されるのかまで考えたい」という信念が、製品づくりの根幹を成しているのだ。
工芸品を生活の随所に取り入れるなど、精密に設計されたマシンとは対を成すようなものづくりも愛する。 「例えば、オフィスで愛用している唐津焼のカップは登り窯で焼成した際に生まれたムラや、手仕事を感じるフォルムが気に入っています。その余白がいいんです」
選び取った豆や道具の背景にある物語、人への敬意……、一杯のコーヒーに込められたダグラスさんの思想から、彼の理想とする豊かな暮らしが垣間見えるような気がした。

ダグラス・ウェバーデザインエンジニア
カリフォルニア出身、福岡県在住。アップル在職中はiPod nanoやiPhoneの開発に携わる。現在、自社でのエスプレッソマシンの開発に注力中。
photo : Koji Maeda text : Tsutomu Isayama































































