LIFESTYLE ベターライフな暮らしのこと。
一杯のお茶から、世界とつながる。アーティスト、ジョアンナ・タガダ・ホフベックさんのお茶の楽しみ方。October 25, 2025
コーヒーとお茶にまつわるBetter Lifeのヒントを集めた、&Premium144号(2025年12月号)「コーヒーとお茶と、わたしの時間」より、アーティスト、ジョアンナ・タガダ・ホフベックさんのひと息つく時間、そのスタイルを訪ねました。
それぞれの時間に合う一杯を重ねる、ジョアンナさんのティータイム。
お茶を味わうたび、その背景に思いを馳せる。
幼少期を過ごしたフランス・アルザスの祖父母の農園で、ジョアンナさんのお茶の時間は始まった。農薬や肥料に頼らず、人と自然の循環を大切にするパーマカルチャーの畑では、毎日、自家製のハーブティーを飲むのが日課だったという。
現在はイギリス・オックスフォードシャーを拠点に、ペイントや造形作品、出版など幅広く手がけながら、日々欠かさずお茶の時間を設けている。その関心は飲むことにとどまらず、7年前にはお茶を楽しみ探求する人々をテーマにした雑誌『Journal du Thé(ジャーナル・ド・ティ)』を共同で創刊。大きな反響を呼び、今も世界各地のお茶の産地やショップを訪ね歩きながら制作を続ける。
「お茶は各地の歴史や文化を色濃く映しながら、誰にでも開かれている存在です。格式高い作法に則るものもあれば、談笑しながらカジュアルに楽しむスタイルもある。その多様さと普遍性が、私の探求心をかき立てます」
多岐にわたる制作で多忙なはずなのに、彼女の暮らしには慌ただしさがない。みずみずしい植物と淡色の布に包まれた自宅には個性豊かな茶器が整然と並び、壁づけのCDプレーヤーから穏やかな音楽が流れる。自然光に満ちたアトリエでは、日常のかけらをモチーフにした柔らかく鮮やかなペイントが、訪れた人の心をほどいてくれる。
「お茶がもたらす時間は、コーヒーやお酒とはまったく違います。カフェインやアルコールは本当の自分を隠してしまうこともあるけれど、お茶では隠せない。淹れる所作、味わう表情、その間に交わされる言葉から、一緒に飲む人や自分自身の“ありのまま”が見えてくるんです」
一日に5~6杯、ハーブティーから日本茶、チャイまで世界各地のお茶を取り入れる日常は、癒やしであると同時に“つながり”でもあるという。
「夕方に淹れるマサラチャ(ヒンディー語でチャイ)は、インド北部にルーツを持つ義母ビビが伝えてくれた特別なもの。カルダモンのブレンドは自分でも作れるけれど、ビビが挽いたもののほうがずっとおいしく感じるので、あえて作ってもらっています」
キッチンの吊り戸棚いっぱいの茶器に新品はほとんどなく、フランス、スイス、ドイツ、イギリス、インドなど各地で暮らした際にセカンドハンドショップで見つけたものや、友人と作品を物々交換したもの、取材を通して出会った作家からの贈り物など、ひとつひとつに思い出が宿っている。飲み終えた茶葉は決して捨てず、コンポストに入れ畑に還すのも日課だ。
「最近は“自分を癒やす”ことばかりに注目が集まりがち。でも、私を癒やしてくれる一杯のお茶は、たくさんのつながりの上にあることを忘れずにいたいのです」
インタビューの後、彼女は新たなお茶どころを訪ねるため韓国へと旅立っていった。

ジョアンナ・タガダ・ホフベックアーティスト
オックスフォードシャーを拠点とするフランス出身のアーティスト。暮らしや自然への眼差しを軸に、絵画やテキスタイル、写真、文筆活動などを手がける。雑誌『Journal du Thé - Contemporary Tea Culture』の共同創始者であり、『Poetic Pastel Press』および『The Gardening Drawing Club』の創始者でもある。
photo : Kohei Yamamoto text : Tomone Nakayama

















































