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自然の中に溶け込んでいく即興の音楽。蓮沼執太さんが選ぶ、旅のプレイリスト。July 12, 2025

&Premium140号(2025年8月号)「心を整える、日本の旅」より、音楽家の蓮沼執太さんが作ってくれた、心を穏やかにする旅で聴きたいプレイリストを特別にwebサイトでも紹介します。

自然の中に溶け込んでいく即興の音楽。

「Gottes Zeit Ist Die Allerbeste Zeit」Kurtág György/ハンガリー人ピアニストが、2006年に開催した80歳の記念公演から。その演奏は、自然の音に溶け込むよう。『Kurtág : 80』に収録。
「Gottes Zeit Ist Die Allerbeste Zeit」Kurtág György/ハンガリー人ピアニストが、2006年に開催した80歳の記念公演から。その演奏は、自然の音に溶け込むよう。『Kurtág : 80』に収録。
「Excess Success」Jeff Parker/幅広 い作風のギタリスト。2021年に発表のギ ター演奏中心の作品は、彼独特の奏法に よるジャズやアンビエント寄りのアプロ ーチが聴ける。『Forfolks』に収録。
「Excess Success」Jeff Parker/幅広い作風のギタリスト。2021年に発表のギ ター演奏中心の作品は、彼独特の奏法によるジャズやアンビエント寄りのアプローチが聴ける。『Forfolks』に収録。
「Cow Song」Meredith Monk/ボイスパフォーマーでもあるモンクが、1973年に発表した楽曲。森の音と声が溶け合うようで、途中から人間特有の旋律が出てくる。『Our Lady Of Late』に収録。
「Cow Song」Meredith Monk/ボイスパフォーマーでもあるモンクが、1973年に発表した楽曲。森の音と声が溶け合うようで、途中から人間特有の旋律が出てくる。『Our Lady Of Late』に収録。
「Here We Are (Once Again) 」Okkyung Lee/即興演奏で知られるチェリスト。いい意味で音楽的に聴こえる。自然の中で日常を忘れているとき、我に返してくれます。『Yeo-Neun』に収録。
「Here We Are (Once Again)」Okkyung Lee/即興演奏で知られるチェリスト。いい意味で音楽的に聴こえる。自然の中で日常を忘れているとき、我に返してくれます。『Yeo-Neun』に収録。
「Suiren」Pauline Oliveros, Stuart Dempster, & Panaiotis/名盤『Deep Listening』から。目を閉じて、瞑想状態に入りながら聴いてもいいけど、自然の音とのミックスバランスも最高です。
「Suiren」Pauline Oliveros, Stuart Dempster, & Panaiotis/名盤『Deep Listening』から。目を閉じて、瞑想状態に入りながら聴いてもいいけど、自然の音とのミックスバランスも最高です。
「Suiren」Pauline Oliveros, Stuart Dempster, & Panaiotis/名盤『Deep Listening』から。目を閉じて、瞑想状態に入りながら聴いてもいいけど、自然の音とのミックスバランスも最高です。
「Suiren」Pauline Oliveros, Stuart Dempster, & Panaiotis/名盤『Deep Listening』から。目を閉じて、瞑想状態に入りながら聴いてもいいけど、自然の音とのミックスバランスも最高です。
「Paradise」Sun Ra/前曲の瞑想から覚まさせてくれる、美しいジャズ。サン・ラは、自らを土星人だと言っているので、宇宙と交信しているような気持ちに。『Sound Of Joy』に収録。
「Paradise」Sun Ra/前曲の瞑想から覚まさせてくれる、美しいジャズ。サン・ラは、自らを土星人だと言っているので、宇宙と交信しているような気持ちに。『Sound Of Joy』に収録。
「Third Stream Boogaloo」Derek Bailey/即興演奏家が率いた、グループが〈ECM〉から発表した名作『The Music Improvisation Company』から。鳥の鳴き声のようなギターが耳に残る。
「Third Stream Boogaloo」Derek Bailey/即興演奏家が率いた、グループが〈ECM〉から発表した名作『The Music Improvisation Company』から。鳥の鳴き声のようなギターが耳に残る。
「Duo Improvisation-Side B」小杉武久、 鈴木昭夫/実験音楽家の巨匠たちが、19 80年に発表した『New Sense Of Hearing』から。森の中もハマるけど、都市で聴くと自然を思い起こさせてくれる音。
「Duo Improvisation-Side B」小杉武久、鈴木昭夫/実験音楽家の巨匠たちが、1980年に発表した『New Sense Of Hearing』から。森の中もハマるけど、都市で聴くと自然を思い起こさせてくれる音。
「Ame No Ki (Rain Tree) 」武満徹/大江健三郎の小説に触発されて生まれた名曲。2001年に演奏された『Toru Takemitsu:Toward the Sea/Rain Tree/Rain Spell/Bryce』収録のものが好き。
「Ame No Ki(Rain Tree)」武満徹/大江健三郎の小説に触発されて生まれた名曲。2001年に演奏された『Toru Takemitsu:Toward the Sea/Rain Tree/Rain Spell/Bryce』収録のものが好き。

 これまで、さまざまな場所でフィールドレコーディングを行ってきました。そのなかで、例えば熊野古道など、日常生活から離れて、森の中へ入ったとき、まずは木々の揺れや鳥のさえずりなどの音に耳を澄ます。自然の中には豊かで、想像以上に複雑な音の情報があるんです。収録する最中、過酷な環境の場合には宿を取ることもありますが、キャンプをしながら、豊かな音場に親しみ、自然と一体化するのが醍醐味のひとつ。ただ、日常と非日常のバランスを取りたい性質なので、自然の中に長時間滞在すると、人間が作った音楽が聴きたくなる。そんなときは、譜面に沿って、正確に演奏されるものより、人間の動物性や生理に従って奏でられるような音楽がいいんですよね。例えば、ピアニストのクルターグ・ジェルジュが80歳のときに演奏したバッハ「神の時こそいと良き時」。クルターグ自身が高齢なこともあり、ゆっくりと間を取った演奏で、自然の中に溶け込んでいくような響きがあります。ギタリストのデレク・ベイリーによる「Third Stream Boogaloo」は、インプロビゼーションを用いたライヴ演奏で、最初に聴いたときは、先の展開がまったく読めなかった。しかし、風の音や鳥の鳴き声など、自然の中の音も、いつどこで鳴るかなんてわからない。そういう意味で、即興演奏は、やはり自然現象に近いんじゃないかと思っています。イヤフォンを使って、耳の中で聴くというより、モバイルのスピーカーでいいから、(音楽を)自然に解放して、風で葉が擦れる音や河のせせらぎと一緒に聴いて楽しめる音楽を集めてみました。

蓮沼執太さん

蓮沼執太音楽家

自身の作品制作、国内外での音楽公演をはじめ、映画やテレビ、演劇などのメディアで音楽制作を行う。グループ展『HEAR HERE』Yutaka Kikutake Gallery Kyobashiに参加中。

illustration : Shapre text : Katsumi Watanabe

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