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作家・千早 茜さんにとって「美しいもの」とは。October 02, 2025

「美しい」を見つめ直すためのヒントを探った、&Premium143号(2025年11月号)「美しい、ということ」より、作家・千早 茜さんの暮らしに寄り添う"美しいもの"を特別に紹介します。

作家・千早 茜さんにとって「美しいもの」とは。
松本裕子のガラス作品。展覧会には必ず足を運ぶという松本裕子の作品は静謐さに惹かれる。自著『透明な夜の香り』の表紙作品も彼女に手がけてもらったもの。「彼女の作品専用のガラスケースが欲しくてずっと探しています」
作家・千早 茜さんにとって「美しいもの」とは。
村上雄一の入れ子茶器。旅行にも持っていく入れ子茶器。蓋碗、茶海、茶杯がセットになっている。「無駄のないシンプルさ、湯の切れの良さ、頑丈だけれど茶の水色が透ける卵の殻のような薄さと、すべてが気に入っています」
作家・千早 茜さんにとって「美しいもの」とは。
〈ROOTS ROSE RADISH by SETTE〉のソリッドパフューム、〈ray/髙沢裕美〉のガラス。枕元にその時々で体が求める香りを設置。「最近は貝殻に入った練り香水を置いています。貝殻は天然のものなので一つ一つ違って、選ぶのが楽しかったです。置き台にしているガラス作品も涼しげで好きです」
作家・千早 茜さんにとって「美しいもの」とは。
富井貴志の栗の器、大橋保隆の鎚起銅器盆、〈我戸幹男商店〉の漆器盆お盆好きでカッティングボードも含めると40以上を所有。「アクセサリーを載せる小さなものからサイドテーブルと一体化したものまであります。素材も木や金属、レザー、ガラスとさまざまです」

千早 茜さんにとって「美しいもの」とは。

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 お茶を飲んだり、ごはんを食べたりしているとき以外は、ほとんどの時間を仕事用のパソコンの前で過ごしています。創作は自分にとって美しいもの。そして、美しいものを描こうと思いながら小説を書いています。ただ、そうやってずっと家で仕事をしていると、日常が作業になってしまう危うさがある。それでは楽しくないし、手癖で料理をしたくないんです。仕事の区切りに食事をしたり、お茶をしたり、リラックスしたりする際に取り出して「きれいだな」と思うものがあることで、気持ちが上がります。そういう時間のために、美しいものを集めているのだと感じます。また、お茶に栄養はないけれど、心の栄養にはなる。どんなふうに淹れたらおいしくなるのか、今日はこういう温度にしてみよう、お菓子はこれにしてみよう、料理でもこの食材は苦味が強いから調味料はこれを試してみようなど、一つ一つを意識的に行動することで、生活も文章を書くように創作に近づいていく気がします。そういう積み重ねが、自分にとっての美しさなのだと思います。ただ、眺めて気持ちが上がるものではありますが、ほとんどは飾ることはせずにしまっています。空間をすっきりさせたいので、極力、部屋にものを置きたくないんです。

千早 茜作家

2008年『魚神(いおがみ)』(集英社文庫)でデビュー。’21年『透明な夜の香り』(集英社)で渡辺淳一文学賞、’23年『しろがねの葉』(新潮社)で第168回直木賞を受賞。

photo : Satoshi Yamaguchi edit & text : Wakako Miyake

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