花屋『みたて』の「折々に見立てる、京の暮らし」

花であらわす三角の「水無月」。Vol.13 / September 30, 2021

花屋<みたて>に習う植物と歳時記 折々に見立てる 京の暮らし

四季折々に迎える歳時記を、京都の花屋『みたて』が植物を通して表現。一つの作品を通して、京都ならではの生活が見えてきます。

花であらわす三角の「水無月」。

花であらわす三角の「水無月」。

旧暦6月1日は氷の朔日(ついたち)とも呼ばれる氷の節句。平安時代や室町時代の宮中や幕府では、氷室の氷を取り寄せ、氷を口にすることで暑気払いをしたという。氷室は今も京都の北区にその跡と地名を残し、〈氷室神社〉では仁徳天皇の時代に額田大中彦皇子(ぬかたのおおなかつひこのおうじ)に氷を献上したと伝わる稲置大山主神(いなぎおおやまぬしのかみ)を祀る。とはいえ貴重な氷を口にできたのは高貴な身分の人々のみ。手に入らなかった庶民は、氷をかたどった三角の生地に邪気払いの小豆をのせた菓子を作り、これが今に伝わる水無月となった。 
 現在は6月30日に行われる夏越(なごし)の祓(はらえ)の菓子として、京都に受け継がれる水無月。神社で茅の輪をくぐって半年の穢れを払い、残る半年の清浄を祈る夏越の祓に欠かせない和菓子である。
〈みたて〉が6月に作るのは花色の対比で三角を作り、水無月を表現した木箱。京都人なら蓋を開けた途端、水無月を思い浮かべる仕掛けだ。使うのは古くから日本に自生するヤマアジサイ、それに白い花が穂のように咲くコバノズイナと花びらの先が細く裂けた淡い紅色のカワラナデシコをあわせた。ヤマアジサイは中央に集まる小さな粒が本来の花で、花びらに見えるのは装飾花と呼ばれるガクが変化したもの。そのコントラストが可憐さをよりいっそう際立たせている。
 花の水無月を愛でながら、菓子の水無月を味わう。それは京ならではの粋が詰まった、6月だけの楽しみになりそうだ。

photo : Kunihiro Fukumori edit & text : Mako Yamato
*『アンドプレミアム』2016年7月号より。


花屋 みたて

和花と花器を扱い、四季の切り取り方を提案する京都・紫竹の花屋。西山隼人・美華夫妻がすべてを分担し営む。

hanaya-mitate.com

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