小林エリカの文房具トラベラー

小林エリカの文房具トラベラー vol.13「消しゴム」&STATIONERY / October 19, 2021

小林エリカ 文房具トラベラー
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長らく消しゴムのことを愛せなかった。特に間違いを訂正するたびに発生するあの灰色の滓! やつらは私の失敗を(そしてその失敗を認めたということさえ)見せつけるような存在感でもって机の上に散らばってくる。これみよがしに。だから私はこれまで頑にやつらを遠ざけて暮らしてきた。
 何でもペンで描けばいいじゃない。パンが無ければお菓子を食べたらいいじゃない。しかし、マリー・アントワネットを気取ったところで、鉛筆の亜鉛色は好きなので手放したくはない。とはいえ、この世にUndoコマンドが存在するわけでなし。
 しぶしぶ鉛筆の線を消しゴムで擦ってみる。跡は完全には消えずに残る。覆水盆に返らず。
 しかし、私はある日唐突に気づいたのである。盆から溢れた水は、それはそれでまた美しい。寧ろその水がつける染み跡に魅せられるが如く、消しゴムが残す消し跡とその滓に、風流を見つけはじめた。
 いずれ黒ずみ消えて無くなる運命を持つ儚い存在。可愛すぎる消しゴムはもはや罪である。そして、この世は全て諸行無常。

消しゴムイラスト
左/神楽坂〈la kagu〉で猫発見。下/ドイツ・ベルリン〈クンスト・ヴェルケ現代美術館〉の隣の店で骨発見。右/渋谷PARCO〈CLASKA Gallery & Shop "DO"〉で開催された「kotoriten」展示にてまさかの(鳥)トリケシ発見。
左/神楽坂〈la kagu〉で猫発見。下/ドイツ・ベルリン〈クンスト・ヴェルケ現代美術館〉の隣の店で骨発見。右/渋谷PARCO〈CLASKA Gallery & Shop "DO"〉で開催された「kotoriten」展示にてまさかの(鳥)トリケシ発見。

edit : Kisae Nomura
※この記事は、No.14 2015年2月号「&STATIONERY」に掲載されたものです。


作家・マンガ家 小林 エリカ

シャーロック・ホームズ翻訳家の父と練馬区ヴィクトリア町育ちの四姉妹を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)発売中。2021年夏、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)が発売。

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