Book

写真家・大森克己さんによる、文章のみの初の単著『山の音』が発売。August 06, 2022

写真家・大森克己さんによる、文章のみの初の単著『山の音』が発売。

写真と言葉。二つの間で揺れ動くものを捉えた記録と記憶。

写真家の大森克己さんが1997年から2022年まで様々なメディアで発表してきたエッセイやノンフィクション、書評、映画評、詩、対談、さらにコロナ禍の日々を綴った日記を加えた一冊が発売された。写真家の著書でありながら、写真は1枚も収録されておらず、464ページ全てが文で編まれたずしりとした厚みのある本書。序文には「写真とぴったりくっついていた、写真のすぐとなりにあった見ることの難しいさまざまなことがらについての言葉を収めた」と綴られている。

自然や日常生活に流れている音、突如、溢れ出る記憶、何気なく見ていた風景、音楽の中にある情景、近づいては重なり、すれ違う男と女——。

写真と言葉。2つのあいだで揺れ動くものをとらえた言葉には、さまざまな文体が存在する。リアルな出来事を綴った気取らない筆致、短編小説や詩のような手触りを感じるものまで。それは、大森さんの写真表現との繋がりを感じずにはいられない内容で、深い余韻を残す。

「心の眼でものごとを見る」ことをしぶとく続け、鍛錬してきた写真家が考え続けてきたこと。その野性的な感性、知的好奇心、想像力、ユーモア、教養に触れるたびに、深く自分に潜ることの大切さを改めて思い知る。そして、しばらく書き綴っていなかった日記をつけたくなるような衝動が押し寄せてくる。

そんなふうに、生きるうえでさまざまな示唆を与えてくれる一冊だ。

大森克己 写真家
Katsumi Omori

1963 年兵庫県神戸市生まれ。日本大学芸術学部写真学科中退。スタジオエビスを経て、1987 年よりフリーランスとして活動を始める。フランスのロックバンド Mano Negra の中南米ツアーに同行して撮影・制作されたポートフォリオ『GOOD TRIPS,BAD TRIPS』で第9回写真新世紀優秀賞 (ロバート・フランク、飯沢耕太郎選)受賞。主な写真集に『very special love』『サル サ・ガムテープ』『Cherryblossoms』(以上リトルモア)、『サナヨラ』(愛育社)、 『STARS AND STRIPES』『incarnation』『Boujour!』『すべては初めて起こる』(以上マッチアンドカンパニー)、『心眼 柳家権太楼』(平凡社)。主な個展に 「すべては初めて起こる」(ポーラミュージアム アネックス/2011)、「sounds and th ings」(MEM/2014)、「山の音」(テラススクエア/ 2018)。参加グループ展に「路上から世界を変えていく」(東京都写真美術館/ 2013)、「Gardens of the World」 (Rietberg Museum / 2016)、「語りの複数性」(東京都公園通りギャラリー/ 2021) な ど が あ る。写 真 家 と し て の 作 家 活 動 に 加 え て 『dancyu』『BRUTUS』『POPEYE』『花椿』などの雑誌やウェブマガジンでの仕事、数多くのミュージシャン、著名人のポートレート撮影、エッセイの執筆など、多岐に渡って活動している。

BOOK INFORMATION

『山の音』大森克己

発売日:2022年7月28日
発行所:プレジデント社
価格:¥2,970
仕様:四六判(464頁)
ブックデザイン:佐藤亜沙美

text : Seika Yajima

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