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極私的・偏愛映画論『アニー・ホール』選・文 / 小林夕里子(〈イデー〉VMD) / July 25, 2022

This Month Theme住まいのカタチや暮らし方が心に残る。

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インテリアの隅々に醸し出される、住む人の暮らしやキャラクター。

この映画はダイアン・キートン演じる、アニー・ホールの着こなしが素敵! ということで記憶に残っている方もたくさんいるのではないでしょうか。テニス帰りの白シャツにネクタイ、ベストのマニッシュな恰好はもちろん、本屋ではチェックシャツにカーゴパンツにネイビージャケット。クラブのステージで歌うときは、白シャツに黒の長いスカーフをリボンのように巻き、極めつけは黒柳徹子みたいな玉ねぎ型のラフなおだんご。私も全部が大好きです。

この映画にはウディ・アレン演じるアルビー・シンガーの部屋、アニー・ホールの部屋、それぞれの実家の部屋と色んな部屋が登場します。座ったら沈みこみそうなクッタリとしたソファ、たくさんのクッションが無造作に置かれたベッド、部屋の片隅に雑然と積まれた本の山。そしてどの部屋でも目につくのは間接照明やアート。居心地が良さそうで記憶に残っています。仕事でスタイリングをすることがあるけれど、この醸し出す居心地の良さを表現するのはとっても難しい!

登場する部屋はどれもそれぞれのキャラクターと一致しています。アニー・ホールの部屋は、全体的に白くてモダンなインテリア、サイドボードの上には植物と家族のモノクロ写真。でも、開きっぱなしの扉だったりして、ちょっと抜けてて温かみのある人柄を感じます。一方、アルビー・シンガーの部屋は実家の雰囲気を踏襲していて、クラシックな家具とデコラティブなゴールドのアートフレームを取り入れているところに、偏屈の片鱗を感じてしまう……。居心地が良さそうなソファもなんだか触るとじっとりと湿気を帯びて色んな匂いが染みついていそうに見えてくるから不思議。

暮らし方に人となりは表れ、だからこそすごく印象に残ったのかなと思います。自分にとって心地よい住まいのカタチ。日々の何でもない時間を大切に、愛着あるものに囲まれた暮らしがしたいものだとこの映画を観て思うのでした。

illustration : Yu Nagaba
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ウディ・アレンが監督、主演の男女が出会って、別れるまでのストーリー。ウディ・アレンらしいユーモアと皮肉たっぷりの会話劇で繰り広げられ、未練と別れた後悔が共感を呼ぶ作品。1977年度アカデミー賞の主要4部門を受賞しています。なんで彼女は戻ってこなかったのかって……。だってこんな男性イヤだもの!(笑)。
Title
『アニー・ホール』
Director
ウディ・アレン
Screenwriter
ウディ・アレン
マーシャル・ブリックマン
Year
1977年
Running Time
93分

〈イデー〉VMD 小林 夕里子

こばやし・ゆりこ/オリジナルの家具や国内外からセレクトした雑貨を扱うインテリアショップ〈イデー〉のVMD。著書に『暮らしを愉しむお片づけ』(すばる舎)がある。

instagram.com/yuricook

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