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書評家・江南亜美子が選ぶ、心がふるえる言葉を紡ぐ海外エッセイ。&Books 素敵な人になるための読書案内。December 28, 2021

書評家・江南亜美子が選ぶ、心がふるえる言葉を紡ぐ海外エッセイ。&Books 素敵な人になるための読書案内。

2021年12月8日発売の特別編集MOOK「&Books/素敵な人になるための読書案内」。これまでの読書にまつわるコンテンツをまとめた1冊から、「心がふるえる言葉を紡ぐ、エッセイの魅力」企画の一部を紹介。書評家の江南亜美子さんに、海外作家のエッセイ本を推薦してもらいました。

重層的な言葉の妙が楽しめる、海外エッセイ。

著者の体験を通して思索や思想、妄想が繰り広げられ、いつの間にかその世界に引き込まれていく。ファンタジーでもあり、ノンフィクションでもあるエッセイには、小説の言葉とは異なる魅力がある。言葉の豊かさや面白さ、切なさを堪能できる、心がふるえるエッセイとその書き手の中から、海外作品をピックアップ。翻訳でも存分に発揮された言葉の豊かさを味わえる、今、読みたい海外のエッセイ6冊とは。

『アメリカ死にかけ物語』
リン・ディン 著 小澤身和子 訳 河出書房新社
路上や安酒場や長距離バスで偶然行きあった人の話からは、アメリカのナマの「声」が聞こえる。故郷サイゴンから戦火を逃れ11歳で渡米したディンは、長じて、アメリカ中を旅してまわった。不法移民、飲んだくれ、病人、退役軍人など底辺に生きる大衆の、野心や退屈やささやかな願いを書き留めながら。「死んだら、生まれた場所に遺灰を撒いてもらいたいね」。無数の人生のかけらの物語。
『アメリカ死にかけ物語』
リン・ディン 著 小澤身和子 訳 河出書房新社

路上や安酒場や長距離バスで偶然行きあった人の話からは、アメリカのナマの「声」が聞こえる。故郷サイゴンから戦火を逃れ11歳で渡米したディンは、長じて、アメリカ中を旅してまわった。不法移民、飲んだくれ、病人、退役軍人など底辺に生きる大衆の、野心や退屈やささやかな願いを書き留めながら。「死んだら、生まれた場所に遺灰を撒いてもらいたいね」。無数の人生のかけらの物語。
『べつの言葉で』
ジュンパ・ラヒリ 著 中嶋浩郎 訳 新潮クレスト・ブックス
学生時代にフィレンツェに魅了されて20年。ずっと愛着を持ち続け、ついには家族とともにローマへ移住したラヒリは、ルーツである西ベンガルの言葉でも、幼少期から移民の子として習得した英語でもない、三番目の言語であるイタリア語に浸って暮らし始める。「新しい言語は新しい人生のようなもの」。変化と不安定さを逆に楽しみ、自ら伊語で小説を書くに至ったラヒリの、初エッセイ集。
『べつの言葉で』
ジュンパ・ラヒリ 著 中嶋浩郎 訳 新潮クレスト・ブックス

学生時代にフィレンツェに魅了されて20年。ずっと愛着を持ち続け、ついには家族とともにローマへ移住したラヒリは、ルーツである西ベンガルの言葉でも、幼少期から移民の子として習得した英語でもない、三番目の言語であるイタリア語に浸って暮らし始める。「新しい言語は新しい人生のようなもの」。変化と不安定さを逆に楽しみ、自ら伊語で小説を書くに至ったラヒリの、初エッセイ集。
『パリはわが町』
ロジェ・グルニエ 著 宮下志朗 訳 みすず書房
リューベック通り30番地、ポン=デザール、市庁舎広場……。ノルマンディ生まれの97歳の作家が、長年住んだパリの土地にまつわる記憶をつれづれに語る。印刷工だった祖父、連行されたユダヤ人夫妻、ジャン・ジュネのいたサンテ刑務所、「パリ解放」の日のホテル・リッツなど、近しい人々の思い出や実際の体験を、グルニエは散歩するように想起する。「パリの文学的足跡」が刻まれた名エッセイ。。
『パリはわが町』
ロジェ・グルニエ 著 宮下志朗 訳 みすず書房

リューベック通り30番地、ポン=デザール、市庁舎広場……。ノルマンディ生まれの97歳の作家が、長年住んだパリの土地にまつわる記憶をつれづれに語る。印刷工だった祖父、連行されたユダヤ人夫妻、ジャン・ジュネのいたサンテ刑務所、「パリ解放」の日のホテル・リッツなど、近しい人々の思い出や実際の体験を、グルニエは散歩するように想起する。「パリの文学的足跡」が刻まれた名エッセイ。。
『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくてル=グウィンのエッセイ』
アーシュラ・K・ル=グウィン 著 谷垣暁美 訳 河出書房新社
名作『ゲド戦記』の著者ル= グウィンが、おそるべき率直さで老いや芸術の豊かさや愛猫について語る一冊。「若い者には、年寄りは務まらない」など、ユーモアあるツッコミは、彼女の知性とやさしさから生まれる。「芸術は競馬ではない。文学はオリンピックじゃない」と、文学の真の価値を語る口ぶりには熱がこもる。時間をどう使うと後悔せずに生きられるのか。彼女の明晰さに知恵を借りよう。
『暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくてル=グウィンのエッセイ』
アーシュラ・K・ル=グウィン 著 谷垣暁美 訳 河出書房新社

名作『ゲド戦記』の著者ル= グウィンが、おそるべき率直さで老いや芸術の豊かさや愛猫について語る一冊。「若い者には、年寄りは務まらない」など、ユーモアあるツッコミは、彼女の知性とやさしさから生まれる。「芸術は競馬ではない。文学はオリンピックじゃない」と、文学の真の価値を語る口ぶりには熱がこもる。時間をどう使うと後悔せずに生きられるのか。彼女の明晰さに知恵を借りよう。
『ぼく自身のノオト』
ヒュー・プレイサー 著 きたやまおさむ 訳 創元社
32歳の無名の青年がつづった個人の日記の抜粋が、のちに500万部のベストセラーになると誰が想像できたろう。1970年代のアメリカに住む「ぼく」の切実なる心の声は、それほどに普遍性を持ち、いまも有効だ。「ぼくはありのままの自分でいる時の自分がいちばん好き」。アイデンティティ、他者との関係、自己肯定。いつの世も変わらぬ青年期の悩みに愛ある回答を。40余年を経て日本語版復刊。
『ぼく自身のノオト』
ヒュー・プレイサー 著 きたやまおさむ 訳 創元社

32歳の無名の青年がつづった個人の日記の抜粋が、のちに500万部のベストセラーになると誰が想像できたろう。1970年代のアメリカに住む「ぼく」の切実なる心の声は、それほどに普遍性を持ち、いまも有効だ。「ぼくはありのままの自分でいる時の自分がいちばん好き」。アイデンティティ、他者との関係、自己肯定。いつの世も変わらぬ青年期の悩みに愛ある回答を。40余年を経て日本語版復刊。
『きのこのなぐさめ』
ロン・リット・ウーン 著 枇谷玲子 中村冬美 訳 みすず書房
マレーシアからノルウェーへ留学。そこで出会った夫との幸福な結婚生活は、彼の急死で突如終わった。飲み込まれる悲しみの日々、地元博物館できのこ講座を受け始める。官能的な味わいと中毒死もある危険性が隣りあわせの、奥深いきのこの世界に魅せられ、著者は次第に自分を取り戻していく。知の探究と精神の快復プロセスの両面が、人類学者らしい細やかさで綴られ、胸をうつ。写真も多数。
『きのこのなぐさめ』
ロン・リット・ウーン 著 枇谷玲子 中村冬美 訳 みすず書房

マレーシアからノルウェーへ留学。そこで出会った夫との幸福な結婚生活は、彼の急死で突如終わった。飲み込まれる悲しみの日々、地元博物館できのこ講座を受け始める。官能的な味わいと中毒死もある危険性が隣りあわせの、奥深いきのこの世界に魅せられ、著者は次第に自分を取り戻していく。知の探究と精神の快復プロセスの両面が、人類学者らしい細やかさで綴られ、胸をうつ。写真も多数。

navigator/writer
江南亜美子 Amiko Enami
書評家。1975年生まれ。ファッション誌や文芸誌、新聞などで書評や作家インタビューを行う。日本の現代文学と翻訳文学を愛する。共著に『韓国文学を旅する60章』(明石書店)、『きっとあなたは、あの本が好き。連想でつながる読書ガイド』(立東舎)など。

illustration: Asami Hattori edit : Wakako Miyake text : Amiko Enami

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