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Art素顔の芸術家たち

This Month Artist: James Turrell / May 10, 2018 ジェームズ・タレル文/河内 タカ

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James Turrell
1943 – / USA
No. 054

1943年ロサンゼルス生まれ。ポモナカレッジで知覚心理学、数学、天文学などの自然科学の諸分野、その後カリフォルニア大学アーバイン校で美術史を学ぶ。1968年から1971年までアメリカ航空宇宙局研究所に勤務した後、光を素材として用いた実験的なアート作品の制作を始める。飛行機の免許を所持し、空の青い光といった自身の飛行体験からも作品のインスピレーションを得ているという。日本国内においても金沢21世紀美術館や直島の地中美術館などで、光の存在を改めて認識させるようなインスタレーション作品が恒久的に展示されている。

知覚をうながす光のアーティスト
ジェームズ・タレル

 光を使ったアーティストとして知られるジェームズ・タレルは、日本国内においてもタレルらしさを満喫できる上質な作品がさまざまな場所で恒久的に展示がなされていたりするため、アートや美術館好きなら「このアーティストの作品は見たことがある」という人もわりと多いのではないかと思います。

 タレル作品の大きな特徴は、光をまるで形のある物質みたいなもののごとく、光そのものにフォーカスをした見せ方をするところです。たとえば、天井が四角にぽっかりと開けられた空っぽの部屋の作品は、空の色が変わっていく際に見えないところから人工の光を加えることで不思議な空間スペースを作り出したり、部屋の片隅に光のかたまりを提示したり、あるいは真っ暗な暗闇で次第にほのかに発光する物体が現れたりと、人の光に対する知覚を取り入れた芸術作品を提示してきました。

 タレルは一般的に「サイトスペシフィック」、すなわち展示場所に合わせて作品を制作したりスケールを自在に変えたりするアーティストなのですが、提示されるものは光による視覚効果を狙ったわかりやすい作品であり、複雑で難解なことを問うようなものでもありません。したがって、誰もが芸術論や理論云々がなくてもその摩訶不思議に感じる芸術を楽しめるわけで、それが作品の知名度にも繋がっているのでしょう。

 最初に触れたように、タレルの恒久展示作品が日本には多くあって、列挙すると、香川県の直島にある安藤忠雄が設計を行なった『南寺(みなみでら)』、同じ直島になる地中美術館の三作、金沢21世紀美術館の『ブルー・プラネット・スカイ』を含む二作、新潟県十日町の『光の館』、熊本市現代美術館の『MILK RUN SKY』などです。それぞれがとてもエンターテイメント性と参加型という点において優れたものばかりで、現代アートへの入り口となるとても貴重なアーティストではないかと思います。

 さて、そのタレルが長年取り組んでいるプロジェクトの中で、「今はどのくらい完成しているのだろうか?」と話題になる作品があります。それが『ローデン・クレーター』というアリゾナ州のフラッグスタッフ郊外にある噴火口を使ったアート作品で、なんと死火山を人工的に円形のすり鉢状に整備し、宇宙のパノラマを眺める巨大な裸眼天文台を作り上げようとしているのです。さらにその中に地下トンネルを通すことで、太陽や月など天体の動きにあわせて差し込む光を体感できるような空間となるとてつもなく大きなスケールの作品になるそうで、タレルは1979年からこの作品に取りかかり、約40年も経った今も断続的に作業は進められているものの、完成はおそらくまだ先のことだといわれています。

 しかし、もし完成すればひとつのアート作品としては最長年数かつ最大規模のものになり、ドナルド・ジャッドの代表作が数多く点在するマーファや直島のように世界中からアート巡礼者たちが訪れる場所になっていくのかもしれません。とはいうものの、今も建設が続けられているガウディの『サグラダ・ファミリア』さながら、今の進行ペースだとおそらくアーティスト本人が亡くなった後も地道に制作が続けられるという予感がしてしまうのですが、その経過も含めてタレルの独創性に富んだ作品が今後どういった展開をしていくのか興味が尽きないところです。

Illustration: Sander Studio

『James Turrell』(Gagosian / Rizzoli)ロンドンのかガゴシアン・ギャラリーで発表された、インスタレーション、光の作品、彫刻、版画などを収録したカタログ。近年のタレルの作品を存分に楽しむことができる一冊。


文/河内 タカ

高校卒業後、サンフランシスコのアートカレッジに留学。NYに拠点を移し展覧会のキュレーションや写真集を数多く手がけ、2011年長年に及ぶ米国生活を終え帰国。2016年には海外での体験をもとにアートや写真のことを書き綴った著書『『アートの入り口(アメリカ編)』と続編となる『ヨーロッパ編』を刊行。現在は創業130年を向かえた京都便利堂にて写真の古典技法であるコロタイプの普及を目指した様々なプロジェクトに携わっている。