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『結婚記念日』選・文/平野太呂(写真家) / June 20, 2016

This Month Themeテレビでシンプルにやっている。

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平野太呂(写真家)

&Premium 長場雄

90年代の軽薄さと西海岸の呑気さ。

 何の気なしにテレビをつけるとやっている映画。そしてずるずると、タイトルも分からないまま見てしまう映画がある。この『結婚記念日』もそんなタイプの映画で、数年後にあの映画は何だったんだろう? とふと思い出す。たいして感動もしなかったし、誰かが評価をしているのを耳にしたわけでもない。だけど、たまに思い出す。そんな映画。
 これはいわゆるウディ・アレン映画ではない。ウディ・アレンは役者として使われているだけで、監督はしていない。どちらかというとこの映画はウディ・アレンをちゃかすような映画だ。なぜなら、舞台はロサンゼルス。ウディ・アレンが最もいなそうな街である。マリブの丘の上から車で出かけ、渋滞しながらもモールに到着する。そこでウッディは、ほぼどのシーンもサーフボードを抱えているのだ。おまけにベット・ミドラー扮する妻の浮気相手のちょい役が監督のポール・マザースキーなのだ。監督はウディに「ニューヨークのやつがロサンゼルスには文化が無いなんていったらぶん殴ってやる」というセリフも言わせている。
 監督とウディの関係にどんな伏線があるのかは知らないが、これは監督のウディーへの意地悪映画。もしくは、監督もニューヨーク州出身ということを鑑みると、マッチョで夢うつつな西海岸をちゃかす映画と言えるかもしれない。90年代の軽薄さ。西海岸の呑気さ。モールというハリボテの世界観。契約社会。そして人間の移ろげな感情。湾岸戦争が始まろうとしている国が作っている映画としてみると、なんとも危機感の無いことよ。この国の戦争とは専ら対岸で行うものなのだろう。
 どうして僕がこの映画をその都度、思い出してしまうんだろうと、この機会にこうして考えてみる。多分それは、僕が作品をつくるプロセスとこの映画のエッセンスが似ているからかも知れない。僕の写真集『POOL』にしても、いま取り組んでいる『LOS ANGELES CAR CLUB』にしても、どこか現代アメリカ社会を皮肉りながら、自分の立ち位置を確認しているような、そんな作業。僕は日本から西海岸を見ているわけで、この映画はニューヨークから西海岸を見ている。他者を見つめることで自分をもう一度見つめるという作業なのだと思う。
 それにしてもモールの撮影シーンは面白い。背景にいる沢山の人たちはエキストラなわけで、撮影は大変だったと思うが、現場を想像すると楽しい。80年代が終わり、90年代に突入した感じのファッションや髪型などを見るのも面白い。何とも言えない中途半端な感じが笑える。ウディの後ろ髪を少しだけ結んでる感じも絶妙。モールのロケ地となったロサンゼルスのビバリーセンターの横を通るたびに、これからもこの映画を必ず思い出すのだろうな。

illustration : Yu Nagaba
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携帯電話が普及する直前という時代感にも注目。公衆電話からクレジットカードの支払いをするとか、ポケベルとか、約束の時間に電話するとか。
結婚記念日
Title
『結婚記念日』
Scenes From A Mall
Director
ポール・マザースキー
Screenwriter
ポール・マザースキー
ロジャー・L・サイモン
Year
1991年
Running Time
87分

写真家 平野 太呂

1973年東京生まれ。武蔵野美術大学で現代美術としての写真を学ぶ。講談社でアシスタントを務め、より実践的な撮影技法を学ぶ。スケートボード専門誌『SB』立ち上げに関わり、フォトエディターを務める。広告、CDジャケット、ファッション誌、カルチャー誌で活躍中。主な作品に、写真集『POOL』(リトルモア)、CDフォトブック『ばらばら』(星野源と共著/リトルモア)、『東京の仕事場』(マガジンハウス)『ボクと先輩』(晶文社)などがある。

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