Movie極私的・偏愛映画論。

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Coffy / July 20, 2016 『コフィー』

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渋谷直角(マンガ家、コラムニスト)

コフィー 長場雄

『コフィー』を観ると、代官山を思い出す。

 90年代、代官山の鎗ヶ崎交差点にあるビルの1室に「モダン・ヒップスターズ」という古着屋さんがあって、そこにはソウルやジャズ・ファンクの中古レコードがたくさん売っていた。記憶が確かなら、そのお店の壁に貼られていたのが『コフィー』のポスター。アフロヘアに上半身ビキニの黒人女性がライフルを持っているイラストが強烈に印象に残って、「こんな映画があるのか、絶対面白そうだ」と興奮した。
 『コフィー』は1973年のブラックムービーで、90年代後半にリバイバルされるまでは「幻の一本」みたいな扱いだった。パム・グリア演じるコフィーが、ドラッグ中毒にされてしまった妹の復讐のため、麻薬組織の男たちに一人で立ち向かっていくというシンプルなストーリー。オープニングでコフィーが、「ヤクをくれるなら私を好きにしていいわよ」と色仕掛けで誘惑し、デレデレになった男とクルマで家へ向かう(その後ライフルで射殺)。そのときにかかるファンク・チューン、ロイ・エアーズの「コフィー・イズ・ザ・カラー」のカッコイイこと! もうこれでダメ。「ああ、レコード屋さん行きたい!」「古い映画館とか行きたい!」「マンガ描きたい!」なんてアドレナリンが溢れてたまらなくなる。代官山のお店でポスターを観た、高校生のときの気持ちがフラッシュバックするのだ。
 映画自体は低予算で作られて、そこまでクオリティが高い作品というわけではない。それでも世界中にこの映画のファンがいるのは、なによりコフィーがカッコイイから。当時もっとも差別されていた弱い存在である黒人、しかも女性が、男たちを殺しまくる痛快さ。色仕掛けも弱いフリも、「女の武器」は全部使って躊躇なく倒していく。クライマックスにクルマで組織の家にそのまま突っ込むシーンは最高のカタルシスだ。もしかしたら、高校生のときのまだ「何者でもない自分」と「理解してくれない大人」みたいなものを、白人と戦う黒人の姿に重ねていたのかもしれない。でもそんなのはつまらない分析で。『コフィー』は今観てもクールだし、パム・グリアは美しすぎる。それがすべて。大好きな一本。
 ちなみに、代官山の「モダン・ヒップスターズ」で売っていたレコードは、高校生には安々買える値段じゃなかったので眺めるだけ。そのあと交番近くの「デプト」、はす向かいのビル3階の輸入オモチャ屋「D-FORME」に寄って、駅の裏のマンションの1階にあった古本屋で70年代の永井豪や池上遼一のマンガ本を買い、その近くの「キルフェボン」の外観のオシャレさを見ては、(いつか湯沢京とか市川実和子みたいな、オシャレでかわいい女の子とデートすることができたら、このお店に入ったりするのかな)などと無謀な憧れを抱きながら帰るのが代官山のイメージだった。今は、ぜんぶなくなってしまったけど。

illustration : Yu Nagaba
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何より「一人で戦う」ってところがカッコイイ。男だとか仲間だとかに頼らず、一人で知恵をしぼり、窮地を切り抜けていく。そこにシビれる!ストーリーが一直線なぶん、パム・グリアの自立したカッコ良さがより際立つ。パム・グリアを見ているだけでまったく飽きさせない91分!
コフィー
Title
『コフィー』
Director
ジャック・ヒル
Screenwriter
ジャック・ヒル
Year
1973
Running Time
91分
『コフィー』
価格 ¥1,800+税
発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

Chokkaku Shibuya渋谷直角(マンガ家、コラムニスト)

1975年生まれ、練馬区出身。名前は本名。小山ゆうの『おれは直角』から名付けられる。1997年にマガジンハウス『relax』でライター業を開始。同誌で『リラックスボーイ』というマンガを描いて以来、いろいろな雑誌やWebでマンガ家、コラムニストとして活躍。長編漫画『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』(扶桑社)が2017年に妻夫木聡×水原希子×大根仁監督のタッグで映画化される。近著にエッセイ集『ゴリラはいつもオーバーオール』(幻冬舎文庫)がある。